[ ロボット ]
(2017/1/1 05:00)
政府がサービスロボット普及のターゲットにする2020年。対話ロボットや家事支援ロボットがこの1年で続々と生活シーンに登場し、20年のロボット社会の絵姿が見えてきた。では、30年はロボットがどんな形で社会に役立つのか。いま見える課題を技術で“克服”できれば、日本のサービスロボット産業は世界を席巻できる。
【課題は頑強性】
「ペッパー」「パルロ」「ロボホン」「オハナス」…。コミュニケーションロボットは生活に定着してきた。対話能力とクラウドコンピューティングによるデータ活用能力を生かし、商品説明や施設案内、来客対応に活躍する。
日立製作所の「エミュー3」は対話機能に加え、移動能力も備える。20年にはこうしたロボット達が今より当たり前に社会に存在することになる。
しかし、このレベルにとどまっていては、消えていった過去のロボットブームと変わりない。ブームに終わらせず、30年になっても日本がロボット先進国であり続けるには何をすべきか―。
津賀一宏パナソニック社長は「コミュニケーションロボットは作れる。だが、いま作れるロボットでは『人ができないことをする』というロボットの本分を果たせない」と手厳しい。欠けている要素は何か。ハッキリ見えている課題はロバスト(頑健)性だ。
【技術の芽ある】
人の生きる世界は、想定できない事柄が起こる。そしてロボットの制御や動きに影響する要素が多すぎる。
ロボットコントローラーを得意とするベンチャー企業、MUJIN(東京都文京区)の滝野一征最高経営責任者(CEO)は「産業用ロボットはあらゆるイレギュラーが排除された工場内で動いているのに『できない』ことだらけ」と指摘する。その上で「何が起きるか分からない環境で働くサービスロボットを作る前に、工場のロボットが『できない』ことをつぶす方が先」と断言する。
ただ、技術の芽はある。エミュー3やトヨタ自動車の「HSR」は、家庭や施設内なら不自由なく動くロボットとして磨き上げを進めている。
もうひとつ欠けているのが、ロボットの機能だ。センサーの進化と低価格化や人工知能(AI)の高度化により、音声認識、画像認識、データ収集・分析といったロボットの頭脳は成長した。ペッパーやエミュー3は雑踏での聞き取り能力に課題が残るものの、人とのコミュニケーションは立派にこなす。だが、これらのロボットは手で物を持ったり作業したりできない。
【身体の成長待つ】
AIを使いバラバラに置かれた不定形物をロボットでつかみ取るなどの技術をファナックと研究開発するプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)の西川徹社長は「サービスロボットはいつか手がけたい。ロボットハンド一つで複数のタスク(課された仕事)をできるのが役立つロボットだ」と、ハンドの重要性を説く。同社も複数のタスクをこなすハンドを研究し始めたほか、東京大学や千葉大学でペン回しやヒモ結びができるハンドの研究が進む。
ロボットは認識や制御などの“頭脳”とアクチュエーター(駆動装置)などの“身体”という両輪の進化によって発達してきた。いまは頭脳の成長が先んじており、身体の成長を待つ段階にある。
ソフトとハード双方の特性を持ち、要素技術のすり合わせが必要なロボットは、日本のモノづくりが最も得意とする分野だ。AIは米グーグルや同マイクロソフトが先行しても、ロボットは海外勢も抜け出せていない。30年にサービスロボット市場を日本が席巻するカギはやはり、モノづくりにある。(石橋弘彰)
(2017/1/1 05:00)