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[ 科学技術・大学 ]
(2017/1/5 05:00)
【遺伝子治療】
遺伝子治療が再び注目を集めている。遺伝子治療はベクターに組み込んだ治療遺伝子を発現させて疾患を治療する。各種ベクターの研究開発が進み遺伝性疾患に対する成功例もあり、2012年に欧州で遺伝子治療薬が承認販売され現在は世界中で開発競争が行われている。
一方、1980年代の幹細胞研究から今日のES細胞・iPS細胞研究は、細胞をリプログラムすることでヒトのあらゆる細胞を再生する基盤技術となり、再生医療の実用化研究が盛んになってきた。
【持続発現型】
産業技術総合研究所は長年「細胞質での持続発現型ベクター」を研究開発している。その中でもステルス型RNAベクター(SRV)は、1万3000塩基対以上の大きな遺伝子の導入や10個の遺伝子の同時導入もでき、細胞に障害を与えず、導入遺伝子が不要な時には除去が可能で、細胞がSRVを異物として認識できないステルス性をもっている。
ときわバイオ(茨城県つくば市)は15年3月に産総研技術移転ベンチャーの認定を受けSRVの実用化に取り組んでいる。SRVの実用化で最も期待されているのがiPS細胞作製技術である。細胞の初期化に用いる遺伝子の数が6個以上でも、単一ベクターを用いるためSRVの遺伝子導入効率は極めて高く、簡単に高品質のiPS細胞を作製できる。
また、末梢(まっしょう)血単球から高品質のiPS細胞を作製できるので、作製工程の標準化と自動化を低コストで実現する装置開発を進めている。
SRVを複数ユニットからなるたんぱく質や抗体医薬品の製造技術に応用することも考えている。現在、二重特異性抗体や、免疫グロブリンM抗体を簡単に作製できる技術の検討を進めている。
【未来の治療法】
当社の中長期的な目標は遺伝子治療用ベクターと、iPS細胞を経由しないで目的の細胞を作り出す「ダイレクト・リプログラミング技術」の実用化である。前者については、産総研や筑波大学、製薬企業、その他の研究機関と共同で血友病、ムコ多糖症やがんの遺伝子治療用ベクターの商品化を目指している。後者では、骨髄損傷の患者から採取した血液を一週間以内に神経幹細胞に変換して移植する治療や、パーキンソン病で欠失したドーパミンニューロンを脳内でグリア細胞から作り出す治療といった、患者への侵襲が少なく低コストの次世代再生医療の実現を目指している。
(ときわバイオ代表取締役・松﨑正晴)
(木曜日に掲載)
【一言メッセージ/産総研生命工学領域研究戦略部 イノベーションコーディネータ 新間陽一】
ステルス型RNAベクターの技術をベンチャー化するための文部科学省STRAT事業への申請段階から微力ながら手伝わせてもらった。このベクターの可能性が広がってきていると感じており、さらなる発展を期待している。
(2017/1/5 05:00)