[ トピックス ]
(2017/1/11 05:00)
トヨタ自動車が米国で再び試練に見舞われている。米自動車メーカーのメキシコ投資計画に対して批判を繰り広げてきたトランプ次期大統領が、その矛先を向けた最初の日本企業がトヨタだった。トヨタは米国でこれまで日米貿易摩擦や大規模リコール問題など幾度の試練を経験してきた。「日本企業代表」のトヨタは標的にされやすい立場にあるのは事実。トヨタは今後の投資計画を明らかにするなど米国経済への貢献に対し理解を求める。トヨタ以外の自動車メーカーも「トランプ対応」に追われる。(名古屋・伊藤研二、編集委員・池田勝敏、大城麻木乃)
国際的な政治リスク常に/13万6000人を雇用
【企業市民】
「トヨタとしては米国はこれまでも重要で、これからも重要となる。企業市民としてこれからもしっかりやっていく」。10日、トヨタの伊地知隆彦副社長は名古屋市内で記者団に対し、こう語った。
9日には米デトロイトで開幕した北米国際自動車ショーで豊田章男社長が今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1500億円)を投じる計画を表明した。あわせて、これまでの60年間に米国で220億ドル(約2兆5300億円)を投資してきた実績や米国で13万6000人を雇用していることも強調した。
【重要な市場】
トヨタにとって米国を中心とする北米市場は、世界販売の約3割を占める、とりわけ重要な市場だ。今回、北米自動車ショーで豊田社長が登壇したのも、投資計画を含む発言内容もトランプ氏の発言前から決めていたことだが、こうした事態になることも視野にトランプ氏に対し、トヨタの米経済への貢献に理解を求める姿勢を打ち出すことにしていたというわけだ。
「トヨタはスケープゴートにされやすい。それが怖い」。トヨタ首脳はトランプ氏の批判以前から、こう危惧の念を抱いていた。近年での、その象徴的な出来事が2009−10年の大規模リコール問題だった。車両に欠陥がなかったにもかかわらず「トヨタバッシング」は広がり、豊田社長が公聴会に呼ばれ厳しい批判も浴びた。そして今回のトランプ氏による批判。
【国家背負う】
今や「国家を背負っている」(トヨタ首脳)とも言える立場となったトヨタには、こうした国際的な政治リスクが常につきまとってしまう。ただ理解を求めるとはいえ「業界で足並みをそろえてというのがトヨタ」(同)だけに、いち早くトランプ氏との会談を実現したソフトバンクグループの孫正義社長のような動きはできない。政治リスクと、どうつきあい、折り合いをつけていくかがトヨタの経営上、より重要な問題となっている。
【北米依存の日系メーカー】
■日産、新ルールに合わせる
■ホンダ、少し状況を見て判断
■マツダ、メキシコ拠点は重要
北米に依存する日系メーカーはトヨタだけではない。日産自動車はメキシコを世界への供給拠点と位置づけ、年産85万台の能力を構えるメキシコ最大の自動車メーカーだ。米国にも小型車を輸出している。
カルロス・ゴーン日産社長は6日、米ラスベガスの家電見本市「CES」の会場で記者団に対し「次期政権の政策を注視する。NAFTA(北米自由貿易協定)に従っているが、それが変わるなら新しいルールに合わせる」と話した。17年中には独ダイムラーと総額10億ドルを投じて高級車ブランドの新工場を操業する予定。当初年産能力は23万台以上を計画している。輸出先に米国も含まれており、計画変更を迫られる可能性がある。
ホンダはメキシコに年産26万台の能力を持ち、15年にはメキシコ製の小型SUV「HR―V」など10万台を米国に輸入した。現地報道によると、八郷隆弘社長は9日、北米国際自動車ショーの会場で記者団に対し、トランプ氏が自動車メーカーのメキシコ生産で批判を強めていることについて「もう少し状況を見て判断していく」と話し、メキシコでの生産体制を直ちに見直さない考えを示した。ただ「米国は非常に重要な市場だ。しっかり投資していく」とも述べ、トランプ氏への配慮をにじませた。
マツダは14年にメキシコ工場を操業。15年度には年20万台生産しうち10万台強を米国で販売した。4日、広島市内で年頭会見をしたマツダの小飼雅道社長は「メキシコで自動車を生産して北米や欧州に供給する当社の戦略に変更はなく、引き続き重要な拠点としてしっかり育てたい」と話している。
地元の米系メーカーの動きは速い。大統領選中からトランプ氏にたびたび名指しで批判されてきたフォード・モーターは年明けに、メキシコ新工場計画を撤回すると発表。その代わりに米ミシガン州の工場に投資する。トランプ氏の圧力に屈した格好だ。
トランプ氏がツイッターでフォードやトヨタを標的にする中で、欧米自動車連合フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は8日、米国工場に10億ドルを投資すると発表した。現在メキシコで生産している大型車を米国内で生産できるようになるとしている。セルジオ・マルキオーネ最高経営責任者(CEO)は9日、同ショーで記者団にトランプ氏がメキシコから米国への輸入車に高い関税を課すことになれば、メキシコでの生産を打ち切る可能性があるとの考えを示した。
一方、トランプ氏はゼネラル・モーターズ(GM)に対してもメキシコ製車両に高い関税をかけると警告しているが、メアリー・バーラCEOは同ショーで記者団に「多額の投資を伴う長期計画で2年から4年前から進めているものだ」と反論する姿勢を示した。
【【日本からのメキシコ投資は拡大基調】】
自動車業界がけん引し、日本からメキシコへの投資は16年に拡大基調にあった。16年1―9月の投資額は11億ドル(約1265億円)と、すでに15年通年(9億8000万ドル)を上回っていた。中南米の雄であるブラジルが政情不安で景気が低迷。同時期の日本からの投資も約4億ドルにとどまる中、相対的にメキシコの好調さが際立っていた。
ところが、16年8月の米大統領の選挙期間中に、共和党の候補だったトランプ氏とペニャニエト大統領との会談を主導したビデガライ財務公債相(当時)がメキシコ批判を繰り返すトランプ氏に対する民意の反発を受け辞任。その後、トランプ氏が選挙に勝つと、一転してビデガライ氏は外相に返り咲いた。正式な大統領就任前からメキシコはトランプ氏の言動に振り回されており、こうした状況は当面続きそうだ。
(2017/1/11 05:00)