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深層断面/MRJ、納期5度目の延期-三菱重工が主導権

(2017/1/24 05:00)

三菱重工業は国産小型ジェット旅客機「MRJ」の5度目の納入延期を契機に、全社横断的にMRJの開発・営業に取り組む。子会社三菱航空機(愛知県豊山町)に任せていた状態から、本社主導の体制を強める。(長塚崇寛、名古屋・戸村智幸、高屋優理)

  • 米国での飛行試験を順調に実施できるかも問われる(米国に出発する試験1号機、昨年9月26日)

■長期的な事業性の確保不可欠−社長直轄、外部活用し迅速化

「(MRJの開発は)最終段階まで来ている」。23日に会見した三菱重工の宮永俊一社長はこう強調した。三菱重工は2016年11月に、MRJの開発を宮永社長直轄の体制とした。宮永社長が陣頭指揮を執ることで、迅速な意思決定と開発実行力を拡大。足元では小型ジェット機の開発を経験した外国人技術者の比率を約3割まで高め、設計変更や型式証明の取得に向けた取り組みを円滑に進める考え。

これまでの自前主義から脱却し、外部資源を有効活用することで開発を加速。宮永社長は「外国人エキスパートと日本人が一体となった世界水準の民間航空機を完成させる」と強調した。

生みの苦しみが続くMRJだが、民間航空機市場は今後20年で機数で約2倍、年率4%の成長が見込める。「MRJの成功には長期的な事業性の確保が不可欠」と説明。長期開発育成型のビジネスで「三菱重工グループに適した事業領域」とMRJを位置づける。

  • 量産計画への影響が懸念される(最終組立工場)

開発費の大幅な増加など、財務基盤への影響も大きな懸念となっている。当初約1800億円規模とされていた開発費はかなりの額まで膨らみ、「現在の額は言えない」とした上で、「足元からさらに3―4割は増える」(宮永社長)とした。

ただ、開発完了に向けて開発費は今後2―3年でピークアウトする見通し。投資回収期間の長期化が見込まれるものの、開発費の増加が三菱重工グループの単年度損益に与える影響は限定的となりそう。開発の効率的推進やグループ全体の収益改善でカバーする。

三菱重工は17年度から事業ドメインを現在の四つから三つへと再編する計画。現在、MRJ事業は、民間航空機の機体部品や造船などを手がける交通・輸送ドメインに属している。MRJ事業の損失分を好調だった機体部品事業で補う格好だった。ただ、新興国市場の減速などを受け、機体部品事業は足元で踊り場を迎えている。そこでドメイン再編後はMRJを安定収益が見込める防衛・宇宙事業に移管。増加する開発費の一部を防衛事業でカバーする戦略が透けて見える。

■MRJ開発、7―8合目−宮永社長「安全な航空機作る」

  • MRJの開発状況について説明する三菱重工の宮永社長(23日)

「MRJの開発は7―8合目まで進んでいる」。三菱重工の宮永社長がそう強調するように、開発は佳境に入っている。今回の納期延期は、「最も安全な航空機を作る」(宮永社長)という目標に向けて慎重を期したと言える。三菱航空機の岸信夫副社長は「必要と考えられる項目は全て洗い出した」とこれ以上の延期はないとの考えを強調した。

延期の原因は大きく二つ。一つ目は電子機器の配置の変更だ。落雷や床からの水漏れというリスクがあるため、電子機器の配置場所を見直す。二つ目はそれに伴い、機体全体で2万3000本以上あるという電線の配置も変えることだ。それらにより、型式証明の取得作業が遅れる。

延期により、米国で実施している飛行試験の長期化が見込まれる。三菱重工は従来、型式証明の取得には2500時間の飛行試験が必要と説明してきた。岸三菱航空機副社長は「今後の詳細な計画によるが、増えると考えている」と見通しを示した。これまで400時間超の飛行試験を実施したが、設計変更により、やり直しが必要になる。

現在5機の試験機体制についても「(試験機の)必要があれば、いとわずに投入する」(宮永社長)と追加を示唆した。岸三菱航空機副社長は量産初号機を試験機に転用する構想があることを認めた上で、「別の機体を初号機にするかどうかは今後決める」との方針を示した。

今後、受注活動への影響が懸念されるが、MRJの米国での営業戦略は、座席数70の機種「MRJ70」を重視することになりそうだ。米国では、米航空大手とパイロットの労使協定で定めた機体重量制限「スコープクローズ」がある。MRJは座席数88の機種「MRJ90」を先行開発するが、同機種は制限を超えている。制限緩和の交渉は続いているが、緩和されるかは不透明な状況だ。

宮永社長は「早く緩和されればMRJ90が良いが、今のままならMRJ70が良い」との認識を示した上で、「顧客も揺れており、交渉の結果を見て決める」と方針を説く。

量産計画の見直しも避けられない。愛知県営名古屋空港(愛知県豊山町)に隣接する最終組立工場で、20年に月産10機まで段階的に生産数を増やす計画を示していたが、修正を余儀なくされる。型式証明の取得作業を進める中で、量産計画をあらためて決めることを明らかにした。宮永社長は「スコープクローズもあり、量産計画をどう進めるかは流動的だ」との認識を示した。

【開発サポート】

ANAホールディングスの片野坂真哉社長は「初号機の納入が20年半ばとなったことは非常に残念だが、万全なる準備の上、完成度の高い機体が納入されることを願っている」とコメントした。その上で「ローンチカスタマーとして引き続き開発をサポートしていく」と、今後も連携する方針を示した。

(2017/1/24 05:00)

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