[ ロボット ]

【電子版】TheROBOT特集(9)本格的な競争が始まったドローンビジネス最前線(上)

(2017/1/27 05:00)

ドローン(飛行ロボット)の動きがめまぐるしい。センサーや制御などの要素技術が急激に進化し、産業用途への応用が一気に進む。一般的な認知も昨年の首相官邸への墜落事件で広がり、同時に活用に対する法律などの制度面も整った。2016年に入ってからは多種多様な企業がドローンへの参入や各種サービスへの活用を打ち出している。ドローンビジネスの現状と今後の姿を探った。

  • ドローン研究の第一人者、千葉大学・野波健蔵特別教授による自律制御システム研究所の「ミニサーベイヤーMS-06LA」

ドローンは一般的に無人飛行機(UAV)の総称として語られることが多い。本来、ドローンという言葉は英語で「雄ハチ」のこと。それが欧米で軍事用の無人飛行機を指す言葉に転じ、そのまま無人飛行機を指す言葉として定着した。日本では昨年、民生用のドローンが墜落した事件が相次いだことで、どちらかというと悪いイメージでドローンという言葉が知られるようになった。

2015年4月22日に首相官邸屋上にドローンが落下しているのが見つかり、5月9日には長野市の善光寺境内にドローンが墜落。同14日には東京都千代田区の憲政記念館の広場でドローンを飛ばそうとした男がおり、さらにその男がインターネットで警察とのやり取りを生中継する騒ぎがあった。

一連の騒ぎを受け、7月にはドローン飛行規制法案が衆議院を通過した。幸か不幸かドローンに関する事件がドローン飛行の枠組み整備を急がせた格好だ。

高度な要素技術を搭載し始めたドローン

さて、UAVとはそのまま人が乗らず遠隔操縦で飛行する機体のことを言う。軍事用はともかく、民生用ではこれまで無線操作するラジコン飛行機のようなものが普通にUAV として扱われていた。

だが、最近になってセンサーや制御などロボットにも使われる要素技術が高度化。併せてそうした機器が小型化し、価格も下がったことから、それらの技術をドローンに次々と搭載できるようになったため、ドローンが身近になり、かつ産業用途で利用できるまでレベルが上がってきた。こうしたセンサー機器や蓄電池などの要素技術の進化は、スマートフォンの普及が後押ししたものだ。

ドローンの特徴は自律飛行

研究者によれば、ラジコン飛行機とドローンには明確な違いがある。ドローンは目的地を定めるだけで自律飛行できる機能を持つところが大きく異なるという。ラジコン飛行機では、操縦者に高い操縦技術が求められた。近年のドローンは姿勢制御は自動が当たり前で、民生用でも手でドローンを押しても元の位置に戻ることができるものもある。簡単な指示で航路を設定すれば、ドローンが自動で飛んでいく機能も普通に搭載されている。

機体別で見ると、ドローンと言えばマルチコプター型と呼ばれるローター(回転翼)を複数持つタイプが想起されるだろう。安定飛行でき操縦しやすいという利点から産業利用でも主流だ。

ほかには小型ヘリコプター型、航空機型などがあり、用途別に形が変わる。また、航空機型が持つ高速航行とマルチコプターのメリットとのいいとこ取りをした、飛行機の羽にローターを付けたタイプもある。大きさもさまざまで、手のひらサイズのものから幅十数メートルの大型のものまである。大きさは、搭載する機器や運ぶ荷物の重さ、航行距離によって決まってくる。

日本のドローン研究は長い歴史を持つ。UAVの研究は1950 年代からとされる。農薬散布で使う産業用無人ヘリコプターは、ヤマハ発動機などが1987年に開発した。本格的なドローン研究を見ると、日本でドローン研究の第一人者される千葉大学の野波健蔵特別教授は1998年に完全自律飛行のドローンを構想した。そして2001 年にはシングルローターのヘリコプターで自律飛行に成功。2011年にマルチローターヘリコプターの自律制御を完成させている。

  • 産業用ドローンのカスタマイズやソフトウェア提供をするプロドローン

拡大一途のドローン市場

産業用ドローンの市場規模は拡大の一途をたどる。インプレスがまとめた「ドローンビジネス調査報告書2016」によると、国内のドローン市場規模は2015年度の104億円から2016年度に199億円、2018年度に578億円、2020年度に1138 億円へと成長していく。

市場の内訳には、ドローンの「機体」そのものやドローンを使った「サービス」、蓄電池や人材育成、任意保険などの「周辺サービス」があり、もっとも伸びるのがサービス分野と見られている。

ドローンの専門家による分類では、ドローンを使ったサービスの大まかな分類は「農業」「点検・検査」「空撮」「搬送」の4つ。農業分野はすでに農薬散布用途でヘリコプター型が活躍しているが、今後は農地の調査・分析や作物の成育度などのモニタリングなど、より高度な農業技術への貢献が期待される。

点検・検査の分野も各社の参入が相次ぐ。橋やトンネルなど構造物の老朽化が進む一方、点検・検査の技術者は足らず、ドローンによる作業負担の軽減や時間の短縮が必須となっている。

搬送分野はドローンが運べる荷物の重さ(可搬重量)や飛行の安定性、確実な運行の監視など技術的な課題が多いが、もっとも市場が拡大する分野だ。離島や山間部など輸送コストがかかる土地への活用が期待される。

ドローンの安全確保も課題

産業用ドローンの運用には、保険制度の整備、操縦の教育なども課題だ。日本マルチコプター安全推進協会(JMSA)は、ドローンの安全な運用による産業利用を目指し2016年2月に始動した。上田直生理事長は「ドローンの発展を阻害しない、現実的な安全技術の策定と啓発が重要」と強調する。

ドローンは、技術の進化はもちろん、航空法や電波法など関連する法律や条例および保険など周辺環境の整備が進む「黎明期」にある。

ドローンは誰でも比較的簡単に購入でき、手軽に使えてしまう。だが、整備不良やバッテリー切れ、操作ミス、通信制御の喪失など事故原因は多い。ドローンは1キログラム以上の重量物であり、それが上空から落下してくると大規模な事故につながる。また、改正航空法や電波法などの法律や条例も一般人が把握して遵守するにはやや手間がかかる。

そのためドローンのビジネス利用には安全講習を受けることが前提になりつつある。安全で適法な運用への座学や実技の教育、機体の適法性の検査、点検の手法などを学んだうえでの利用こそが、健全なドローン産業育成に不可欠という考えだ。

自主規制の策定や安全講習の実施が進む

そのような中、ドローンの研究者やメーカーが中心となって多くの協会が設けられ、機体自体の安全確保や操縦のライセンス、保険制度など健全な利用に向けた自主規制の策定や安全講習の実施をそれぞれ進めている。特に東京大学大学院の鈴木真二教授が代表を務める日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、千葉大学の野波特別教授が会長のミニサーベイヤーコンソーシアム、メーカー主導の日本産業用無人航空機協会(JUAV)が関連協会“3 強”とされる。

前述したJMSAの取組みの特徴は中小型の回転翼機(マルチコプター)に対象を絞ったことと、ドローンの操縦術より運用面での安全技術を重視すること。今後、ドローンは安定性が高まり、誰でも簡単に操縦できるようになってくる。そうなると、体調管理義務やオペレーターを2 人以上にしてヘルメットを装着するといった業務での配慮が重要になるためだ。そうした基準作りを進めている。

さらに企業がドローンを使ったサービスを利用する際にも、安全対策がしっかりしているサービス企業を選定して契約できるような教育も進めるという。

海外製のドローンが電波法などに違反していないかといった検査サービスや、中小企業がドローンビジネスに参入する際のコンサルタント機能なども必要になる。各協会がどこまできめ細かく対応できるかが注目される。

(2017/1/27 05:00)

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