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(2017/2/16 05:00)
【コネクティッド戦略で先陣、大半のモデルに車載通信機】
トヨタ自動車がプラグインハイブリッド車(PHV)の普及に向けアクセルを踏み込む。15日、トヨタはPHV「プリウスPHV」の2代目モデルを同日発売したと発表した。2012年に発売した初代モデルは苦戦を強いられたが、今回はその反省を生かし「市場に受け入れられるものをつくった」(トヨタ幹部)。ハイブリッド車(HV)でエコカーの流れを切り開いたトヨタ。PHVは「その次」に位置付けるエコカーの本命として拡販へ本気度を示す。(名古屋・伊藤研二、編集委員・池田勝敏)
■普及の要
「PHVこそエコカー普及の要」。15日都内で開いた発表会で内山田竹志会長は、トヨタのPHVの位置付けをこう強調した。
トヨタはエコカー開発で全方位の基本姿勢を示す。ただ強弱はある。従来はトヨタの「電動化車両のコア技術が盛り込まれている」(内山田会長)HVに重きを置いた。今後は各国での規制強化をにらみPHV、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)を含めた「全方位(開発)をより早く進める」(吉田守孝専務役員)考え。
中でもFCVを「究極のエコカー」と明確に設定する。ただFCVはインフラ整備など普及への課題が多い。同じく走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車のEVも、社内ベンチャーを立ち上げ開発を強化するが、電池性能など技術課題がある。いずれにせよ普及には「まだまだ時間がかかる」(内山田会長)とみる。
■初代の苦戦
PHVは「普及に必要な条件を備えている」(同)として、ゼロエミッション車普及までの間を埋める「エコカーの大本命、主流となるべきクルマ」(同)と強い思いをかける。12年に投入した初代プリウスPHVは当初、年間販売6万台を掲げ意気込んだ。
ところが累計販売台数は約7万5000台と苦戦した。プリウスと姿形は同じなのに割高で、割高分の特徴を伝え切れなかった。反省を生かし2代目は「お客さまの期待を超える別次元の進化をした自信作」(内山田会長)に仕上げた。特徴あるデザインとし、EVモードの走行距離を従来比2・5倍の68・2キロメートルに拡大した。
消費税込みの価格は326万1600―422万2800円。国内の年間販売目標は3万台と設定。海外では北米で16年11月から先行販売しており欧州などにも順次、投入する。
■新たな仕掛け
本気度は車両改良だけではない。「新プリウスPHVはコネクティッド戦略の先陣となるクルマ」(友山茂樹専務役員)。新型はトヨタブランドで初めて大半のモデルに車載通信機(DCM)を搭載する。スマートフォンから車両の充電状態の確認やエアコン操作が可能。車両の警告灯が点灯すると即座に解析し、自動で異常要因の推定や走行可否判断などをする「IoT(モノのインターネット)時代にふさわしい安心サービス」(友山専務役員)にも乗り出す。
また電力5社と共同でPHVのEVモード走行距離などに応じて電力会社が顧客にポイントを付与する、DCMを生かした新サービスも始める。2代目プリウスPHVは、コネクティッドによる新たなサービスという先進性を付与し、PHVの魅力を訴求する。
トヨタは97年の初代プリウス投入以来、約20年をかけてHV累計販売1000万台を突破した。内山田会長は「PHVの1000万台への道は、もう少し早いのでは」と普及に大きな期待を寄せる。
【強まる環境規制、車各社がPHV投入/排ガス軽減、世界的トレンド】
■ZEV規制
トヨタがPHVの普及に力を入れるのは、米国ではカリフォルニア州が主導するゼロエミッション車(ZEV)規制の影響が大きい。州内で一定の台数を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率を、排ガスを出さないZEVにしなければならない。ZEVはEVやFCVが該当するが、これらだけでは規制をクリアすることは難しいため、PHVやHVも対象になっているが、18年式からHVが除外される。
最大市場の中国でも、EVやPHVといった「新エネルギー車(NEV)」の生産・輸入を一定の割合で義務付ける方向で調整が進んでいる。欧州でも21年までにCO2排出量を平均で1キロメートル当たり95グラム以下に減らすよう義務付けられる。
■既定路線
ただ、米国ではトランプ大統領が人為的要因による地球温暖化に懐疑的とされ、環境規制の動向に不透明感が漂う。先月の米ビッグスリー最高経営責任者(CEO)との会談で、環境規制は「手に負えなくなっている」と発言。燃費基準の緩和を示唆したとみられている。
とはいえ「米国でどんな決定が下されようと排ガスを軽減するという世界的なトレンドは続く」(カルロス・ゴーン日産自動車社長)。車各社がエコカーの普及を迫られる流れに変わりはない。政策動向が読みにくく、当面は既定路線をとらざるを得ないという事情もありそうだ。
各国の規制に適応しやすいのはEVだが、充電インフラ普及や航続距離の問題を考えると、ガソリン車のように化石燃料で走れ、規制にも対応できるPHVが、当面エコカーの中で現実的な選択肢となる。
各社がEVと同時にPHVの強化策を打ち出すのはこうした背景がある。ホンダは今年、FCV「クラリティフューエルセル」で採用したプラットフォームを活用したPHVとEVを米国で投入する計画。「ZEVの時代が来るまでの橋渡しとしてPHVは有効」(本田技術研究所幹部)との見方だ。米ゼネラル・モーターズも航続距離を伸ばしたEVを発表するだけでなく、PHVは高級車「キャデラック」を中心に拡大する方針だ。
欧州を中心に「アウトランダーPHEV」で先行する三菱自動車は今後もPHVに注力する。その三菱自に昨秋出資して傘下に収めた日産は先行するEVをてこ入れすると同時に、資本提携先の仏ルノーとともに、三菱自のプラグインハイブリッドシステムを共用する方針でPHVにも参入する方向だ。
マツダは19年にEV、21年以降にPHVを、富士重は18年にPHV、21年にEVを発売する計画を最近立て続けに打ち出した。米国のZEV規制は18年式、つまり17年後半から生産する車種に適用され対応が目前に迫っているためだ。
■投入ラッシュ
日本では輸入車のPHV投入ラッシュが続く。VWは昨年、PHV「パサートGTE」を、BMWが「3シリーズ」「2シリーズ」「7シリーズ」にPHVを設定した。エコカー減税の対象が18年度にかけて段階的に厳格化され、PHVの存在感が増しそうだ。トヨタがエコカーの代表格であるプリウスで設定したPHV。国内外のPHV市場の競争の火ぶたを切るかもしれない。
(2017/2/16 05:00)