[ オピニオン ]
(2017/3/9 05:00)
数年前から、ふるさと納税を利用している。生まれも育ちも東京なので、格別に思い入れのある地方はない。ただ寄付に応じて特色ある返礼品をお送り頂き、「いつか行くかもしれない旅の、土産の先取り」をするのが楽しい。
いくつかある各地の自治体の紹介サイトを見ていると、ある傾向に気づく。簡単に言えば「西高東低」-すなわち西日本の方に魅力的な返礼品が多いということだ。
そう感じたのは、できるなら東日本大震災の被災地を選びたいと念じているからだ。しかし返礼品を見る限り、東北地方の自治体はコメや地酒が中心で、かろうじてフルーツが目立つ程度。対して西日本の自治体の返礼品は加工食品や菓子類、工芸品などバラエティーに富む。つい目移りしてしまい、震災復興への協力の気持ちが揺らぐ。
狭いと言われる日本だが、東西の差は意外に大きい。詳細は守秘義務があるので説明できないが、ある政府系の委員会で自治体単位の経費補助の採択を審査した時にも、同じことを感じた。応募してきた計画内容の成熟度は、西が東を大きく上回った。
日本は歴史的に、西にある大陸の先進文明を吸収してきた。あるいは西日本の方が温暖なので、寒冷な東日本より農業の発展で先んじた。
近代をみても、明治維新は西国の雄藩が主導権を握り、江戸幕府を崩壊させた。近代産業の勃興事例も西日本が目立つ。日刊工業新聞社の取材網は各地の工業出荷額の比率に近似するが、太平洋ベルト地帯を除けば西日本に拠点が多い。そんなことを考えた。
ただ、経費補助の審査の事務局である役人は、別の説明をしてくれた。地域の自治体の競争がカギを握るのだそうだ。たとえば政府の補助金獲得で、ある自治体が成功したとする。すると隣の自治体の目の色が変わり、成功事例を勉強する。そういう競争の積み重ねが計画内容の地域差につながる。必ずしも東西で一律に論じられないという。隣の芝生を青く感じて動き出すというのは、実に分かりやすい理屈だった。
ふるさと納税の場合、成功事例としてよく紹介されるのは九州にある複数の自治体だ。その周辺は刺激を受けていることだろう。北海道にもそうした事例があるが、東北地方ではあまり聞かない。とくに沿海部の自治体は震災からの復興で忙しく、ふるさと納税の拡充にまで手が回らないのかもしれない。
ただ、こうした地域ごとの競争意識は、上手に使えば効果があげられそうだ。震災から6年。どこかの被災地で復興の成功事例が生まれれば、周辺に新たな動きが広まるに違いない。そんな未来を祈って、今年もさささやかな寄付をした。
(加藤正史)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2017/3/9 05:00)