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深層断面/捉えろ「微気圧振動」 津波・噴火―防災に生かす

(2017/3/9 05:00)

2011年3月11日に発生した東日本大震災で、津波が北海道や東北、関東地方の太平洋岸の広い範囲に押し寄せた。津波の発生を一刻も早く検知し避難に生かせば、命を守れる可能性が高まる。そこで注目されているのが、地震に伴う海面の隆起・沈降などで生じる大気中の微小な気圧振動「微気圧振動」だ。企業や大学では、微気圧振動を観測し、防災に生かすための研究を進めている。(福沢尚季)

  • 津波に襲われた岩手県陸前高田市では復興に向けて土地のかさ上げが進む(17年2月)

■早期検知へ研究進む−計測データ、サイトで公開

【世界に展開】

日本気象協会(東京都豊島区)は、日本国際問題研究所(同千代田区)の委託を受け、02年から包括的核実験禁止条約(CTBT)に関わる業務を行っている。CTBTでは、地下・大気・水中の核実験を監視するために、地震や微気圧振動、水中音波の観測所を世界中に展開している。

同協会は、核実験を監視する機能の整備や、国内の地震と微気圧振動の観測所(地震6カ所、微気圧振動1カ所)の維持管理、データ解析などを担当している。

【12分前に観測】

東日本大震災でも、微気圧振動が津波から発生。その微気圧振動は、津波が沿岸に到達する約12分前に、震央から約210キロメートル離れた国立天文台水沢VLBI観測所(岩手県奥州市)で観測された。このことをきっかけに、同協会は微気圧振動を観測することで津波を事前に検知するための研究を始めた。津波の観測に使う観測機器は一般的に、海上や海底に設置する。そのため観測場所の津波を直接測れるが、地震や津波の直接的な被害を受ける恐れがある。

一方、同協会は微気圧振動を津波が発生した海域から離れた場所(陸上)で観測する。そのため海上や海底の観測手法に比べて設置が容易で、津波で破壊される危険性も少ない。

同協会は今夏をめどに専用ウェブサイトを開設し、微気圧振動の計測データを公開する。微気圧計は国内に、気象庁や大学などの保有を含めると50台ほどあると推定されている。同サイトを通じて観測データを公開してもよいという研究機関があれば、同協会の観測データとともに公開する考えだ。

  • 高知県黒潮町に設置している微気圧計(高知工科大提供)

【観測点を増設】

近い将来に発生が予想される南海トラフ地震。そういった地震による津波の早期検知を目指して研究を進めているのが、高知工科大学システム工学群の山本真行教授の研究グループだ。

研究グループは今秋にも、高知県内に設置している微気圧振動の観測点を約3倍となる16地点程度に増やす。アナログ/デジタル(A/D)変換ボードの開発などを手がけるサヤ(千葉県船橋市)が開発した微気圧振動を捉える装置「微気圧計」について、室戸、安芸、南国、高知、土佐、土佐清水(3地点)、宿毛の7市と東洋町などに新設を検討中だ。

巨大地震が繰り返し発生する南海トラフでは、地震の規模を示すマグニチュード(M)8―9クラスの地震が30年以内に70%程度の確率で起きるとされている。

微気圧計を使った研究が進めば、地震が発生した際に津波を早期に検知できる可能性がある。

《微気圧振動とは?》

地震に伴う海面の隆起・沈降や火山の噴火をはじめ、雷や竜巻、雪崩、地すべり、流星の大気圏突入などで発生する大気中の微小な気圧振動。伝達速度は音速とほぼ等しい。津波の発生を示唆する兆候や、津波の規模を検知できると期待されている。

■火山防災−悪天候でも「活動」把握

  • 父島に設置した微気圧振動の観測点と市原准教授(東大提供)

【成長を調査】

一方、火山の噴火で生じる微気圧振動を防災に生かすための研究も進んでいる。特に10年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火した際には、欧州で空港の閉鎖が相次ぐなど、産業活動にも大きな影響が出た。航空機の火山灰被害を防ぐための研究は、米国やイタリアなどを中心に進められている。

東京大学地震研究所火山噴火予知研究推進センターの市原美恵准教授は、火山の噴火で生じる微気圧振動から、噴火の始まり方や噴煙の上がり方、噴火の成長の仕方などを調べる研究をしている。

【目視の限界】

火山の噴火は、時間がたつにつれて爆発の強さなどが変化する。噴火活動は目視で確認できる場合もある。だが悪天候の日や、噴火で火山灰が噴出され、視界が遮られた場合は不可能だ。一方で、微気圧振動は天候に左右されずに火山活動の推移を把握できる。

11年に宮崎・鹿児島県境に位置する新燃岳が噴火した。市原准教授は、事前に火口から700メートルの場所に微気圧振動の観測点を設置。地震計のデータと組み合わせて解析したところ、噴火活動の変化に伴って微気圧振動の特徴が変化することが明らかになった。

具体的には、マグマが地表に出てくる前に地下水を加熱することによって発生した「水蒸気噴火」や、何時間も連続的に火山灰や軽石を噴出した「準プリニー式噴火」など、噴火活動が変化するにつれて微気圧振動の特徴も変化することを発見。成果は12年に米地球物理学会の論文誌ジオフィジカル・リサーチ・レターズなどに掲載された。

【遠方から確認】

さらに、13年11月に小笠原諸島の西之島が噴火を始めた際には、約130キロメートル離れた父島(東京都)に観測点を設けた。観測データを解析したところ、噴火で発生した微気圧振動を確認。微気圧振動を手がかりに、遠方から火山活動の変化を把握できる可能性を明らかにした。成果は、16年に英科学誌ジオフィジカル・ジャーナル・インターナショナルに掲載された。

市原准教授は今後の研究について「微気圧振動から、噴火の推移を予想したい」と力を込める。

《津波・噴火の危険性》

気象庁によると、津波は海が深いほど速く伝わる性質をもつ。特に沖合では時速800キロメートルと、ジェット機に匹敵する速さで伝わる。津波が陸地に近づくにつれ速度は遅くなるものの、後から来る波が前の波に追いつくため、波の高さは増す。命を守るためには、津波を見てから避難を始めたのでは間に合わない。

一方、火山の噴火も建物の屋根を打ち破るほどの大きな岩石の噴出をはじめ、数百度Cと高温の火山灰や岩石の塊、水蒸気などが一体となって時速数十キロ―百数十キロメートルで山体を流下する「火砕流」など、危険な現象を伴う。

東日本大震災から、まもなく6年。企業や大学は微気圧振動を防災に生かそうと観測や研究に取り組んでいる。研究が進めば、大気中の小さな振動が、命を守る重要な手がかりになるかもしれない。

(2017/3/9 05:00)

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