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[ 科学技術・大学 ]
(2017/3/12 09:30)
パンを作るのに必要な酵母(イースト)について、そのDNAに含まれる16本の染色体のうち新たに5本を設計し、人工合成することに国際共同プロジェクトが成功した。2014年には、同じ研究コンソーシアムによって今回とは別の1本の酵母染色体が作り出されている。産業や医療への応用を目的に、生物のゲノム(全遺伝情報)を自在に操作するデザイナーゲノム(改変ゲノム)に向け、大きな一歩を踏み出した格好だ。
10日の科学誌サイエンスに成果を発表したのは、米ニューヨーク大学ランゴン医療センター、米ジョンズホプキンス大学はじめ、米国、中国、英国、フランスなどの科学者で構成される国際酵母ゲノム合成プロジェクト(Sc2.0)。関連研究を含め計7本の論文が掲載された。Sc2.0コンソーシアムでは、動植物や菌類など細胞内に細胞核を持つ真核生物の初のゲノム合成に向けて、今年中に残りの染色体全部を合成したいとしている。
ゲノムの人工合成は、生物の進化といった基礎研究に役立てられるほか、目的に応じて酵母のゲノム配列を調整することで、新しい抗生物質や化学物質、有用成分の豊富な食料、環境により優しいバイオ燃料などの効率的な生産に応用できる可能性がある。
今回の研究では、「バイオスタジオ(BioStudio)」という特別な設計ソフトを活用。遺伝子の間での反復配列や、使用頻度の低いDNA領域を一部除去したり、DNAのかなり大きな領域を一つの染色体から別の染色体に移動させたり、といった試みも行った。人為的な操作を受けた染色体を生きた酵母細胞に導入しても、細胞は正常に成長したと報告している。
生体細胞がこうしたDNAの変化を許容する「可塑性」は、ゲノムに対するより大きな変更が可能なことを示しており、人工酵母が有用物を作り出すためのゲノム操作の限界を見極める研究にもつなげられる。
さらに、遺伝子治療といった分野に今回の知見が役立てられる可能性もある。現在の遺伝子治療では体内に導入する遺伝子は1個に限られる。それに対し、複数の遺伝子を治療の標的部分に導入し、遺伝子間、たんぱく質間の相互作用による正常なパスウェー(分子経路)の作用で、病気を治療できるかもしれないという。
(2017/3/12 09:30)