[ オピニオン ]
(2017/3/19 12:00)
セビットでPFNと共同デモ
あす3月20日にドイツ・ハノーバーで開幕する国際情報通信技術見本市「CeBIT(セビット)2017」で、なんと日本を代表するテクノロジースタートアップ2社が共演します。共同でデモ展示を行うのは、IoT(モノのインターネット)に特化したモバイルデータ通信プラットフォームを提供するソラコム(東京都世田谷区)と、IoTおよび深層学習(ディープラーニング)技術で強みを持つプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)。
両社による新しい手法が日本発のIoT技術として世界に普及することを期待するのはもちろんですが、とりわけソラコムのグローバル戦略には、後述するように、スタートアップが世界に進出する上でのヒントも隠されているように感じました。
さて、デモ展示では、ソラコムのブースに設置したカメラの映像から、PFNの深層学習プラットフォーム「DIMo(ダイモ)」を使ってIoT端末側で来場者の年齢や性別、映像内の大まかな位置情報をリアルタイムに分析し、統計情報だけをクラウドに送信。その蓄積データをもとに属性ごとのグラフ表示などが行えるものです。
PFNの提唱するこのような「エッジヘビーコンピューティング」は、価値あるデータだけを効率的にクラウドに送信するため、重たい画像データを送らなくてもOK。処理に遅れが発生せず、端末側で深層学習によるリアルタイム分析が行え、通信コストも抑えられるといった利点が期待できます。しかも、画像データは解析後に破棄するため、個人の顔画像やヘルスケアデータなどでプライバシー上の問題が起こりにくい特徴もあるといいます。
そもそも両社のコラボレーションは、PFNの西川徹社長とソラコムの玉川憲社長が会った時に、「(両社の技術を)一緒にすれば面白いものができる、と意気投合したところから始まりました」。15日の記者会見でPFN最高戦略責任者の丸山宏氏は、こう舞台裏を明かしました。
確かにPFNは深層学習でのデータ分析まではできますが、IoTがらみでの低価格モバイル通信やクラウドサービスはソラコムのお手の物。「もともと自分はクラウド寄りの人間。PFNとは非常に良い補完関係にあり、他の面での協力も出てくるのでは」とソラコムの玉川社長も今後の発展に期待を表明しています。ただ、2社の関係について丸山氏は「エクスクルーシブ(独占的)なものではない」と、他の通信・クラウドサービス会社に対するオープンな姿勢も崩していません。
現地スタッフを積極活用
かたや、仮想移動体通信事業者(MVNO)として、「1日当たり10円から」という衝撃的な価格でIoT通信サービスを2015年9月にスタートしたソラコム。すでに5000ユーザーを超えるIoT導入事例を持ち、2016年7月にはトヨタ自動車や三井住友銀行も出資する未来創生ファンドから7億円の資金調達を行いました。これを含めて15年の創業以来の資金調達は約31億円。ちなみに、PFNにはNTT、ファナック、トヨタが出資しています。
そのソラコムを引っ張る玉川社長が掲げる戦略の一つがグローバル展開。まず、国内のお客様が海外展開を進める中で、通信やクラウドのサービスは現地調達しなければならないことから、16年12月に米国に進出。続いて今年2月にはスペイン・バルセロナで開催された「モバイルワードルコングレス」への出展を機に、欧州での事業を開始しました。日本からの進出企業にソラコムのサービスを提供するだけでなく、現地企業のユーザー開拓も積極的に進めています。
例えば、米国で生産者と消費者の距離を縮める農業モニタリングサービスを提供する日本発のKAKAXI(カカシ)や、欧州では現地のビルエネルギー管理システム会社、ワインの温度管理ソリューション企業、さらに街灯から太陽光・風力発電・監視カメラ・携帯通信基地局・駐車場管理と1台で何役もこなす複合インフラ提供会社などが顧客に名を連ねています。
こうした現地ユーザーの発掘を含めたグローバル市場開拓に向けて、玉川社長が強調するのが「ローカルスタッフ活用の重要性」。さらに決め手となるのが、日本ならではのビジネスモデルのようです。
日本企業ならではのビジネスモデル
米国ではクラウド技術が発展し、さまざまな会社がひしめく一方で、IoTでの通信はWi-Fiが主体。逆に、欧州は国ごとにテレコムオペレーターが存在することから携帯通信網をIoTに使い、クラウドは米国ほど普及していないそうです。その間隙を縫って、セルラーとクラウドで一体的にIoT通信サービスを展開する同社は「欧州でも斬新と受け止められている。米国でも欧州でもない、日本だからこそできたビジネスモデル」(玉川社長)。IoT機器向けに低消費電力で広域をカバーする通信規格の「LoRaWAN(ローラワン)」でのデータ通信サービスも2月に開始しました。
日本の大手通信事業者はこれまで、海外事業で失敗を繰り返してきました。新規参入するには大規模な設備が必要で、初期費用も莫大なためです。それが、モバイルインターネット時代となり、ユーザーにとって使い勝手の良いソフトとクラウドを用意し、現地キャリア(通信事業者)と組めば、どこでもサービスを提供できるようになりました。そんな身軽さを武器に、日本発スタートアップのグローバルでの躍進が続いていきそうです。
(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/3/19 12:00)