[ トピックス ]
(2017/4/11 05:00)
名古屋駅周辺の再開発が節目を迎えている。JR東海は駅前の新たな顔となる高さ220メートルの複合ビル「JRゲートタワー」を17日に全面開業する。名古屋鉄道も南北400メートルの大規模ビルを建設する再開発計画を公表しており、2027年のリニア中央新幹線品川―名古屋間開業に向けて名古屋がさらに変わろうとしている。(名古屋・戸村智幸)
JR東海、商業拠点を形成
【人の流れ呼ぶ】
「人の流れやビジネスのあり方が変わった」(山口千秋名古屋駅地区街づくり協議会会長=東和不動産社長)。名駅再開発の先鞭(せんべん)をつけたのは、JRセントラルタワーズ。JR東海が国鉄分割・民営化による1987年の発足後の目玉として90年に計画を公表し、00年に開業。07年にはトヨタ自動車をはじめとする大手企業が入居する高さ247メートルのミッドランドスクエアも開業し、大量の人の流れをもたらした。
さらに15年には名駅地区の草分け的存在の大名古屋ビルヂングが建て替え工事を完了したほか、日本郵便のJPタワー名古屋が完成。16年にはホテルやシネコンなどが入居するシンフォニー豊田ビルが開業した。
この結果、JRセントラルタワーズの中核であるジェイアール名古屋タカシマヤは14年度に以前からの繁華街である栄地区の松坂屋名古屋店を売上高で抜き、地域一番店となった。16年度の売上高は1286億円で、JRセントラルタワーズが開業した00年度の608億円から倍増した。
【17年前と違う】
地価も上昇している。名駅のある名古屋市中村区の商業地の1月1日時点の公示地価は、前年比10・1%上昇。最高地点の名古屋近鉄ビル(中村区名駅1の2の2)の1平方メートル当たりの地価は1050万円で、前年比12・3%上昇した。ジェイアール名古屋タカシマヤの開業に携わった田中君明JR東海取締役専務執行役員は「名駅は17年前と全く違う姿になった」と感慨深げに振り返る。
17日に全面開業するJRゲートタワーについて、田中取締役専務執行役員は「リニアのゲートが開くという意味を名称に込めた」と明かす。同タワーは地上46階、地下6階建てで、リニア中央新幹線の名古屋新駅に最も近いビル。地下5・6階は新駅の一部となり、改札を設置する予定。
JR東海グループのホテルや商業施設「タカシマヤゲートタワーモール」のほか、家電量販店が入居し、JRセントラルタワーズと2―15階を連絡通路で結び、一体運営して一大商業拠点とする。タカシマヤゲートタワーモールは開業2年目以降、年間平均売上高337億円を見込む。
名鉄、乗りやすい駅に
【“迷駅”返上】
リニア開業を意識して再開発を進めるのは、JR東海だけではない。名古屋鉄道は名鉄名古屋駅の周辺区域約2万8000平方メートルの再開発計画を公表した。話題となったのが高さ160―180メートル、南北400メートルの特徴的なビル。百貨店、ホテルなど自社ビル3棟と、近鉄グループホールディングスなど共同事業者3社のビル3棟を解体し、商業施設やオフィス、ホテルが入居するビルを建てる。
一方、地下では乗りにくさから“迷駅”とやゆされる駅の拡張工事を27年度に完了する方針だ。名鉄の駅は名鉄百貨店などが入るビルの地下にあるが、線路は上下線1本ずつ、ホームは降車専用含めて3本しかない。岐阜県、愛知県三河地方、中部国際空港(愛知県常滑市)と各方面に路線が枝分かれし、同じホームから複数路線の電車が発着するため、乗り間違えが起こりやすい。
そこで「方面別の乗り場にして、全てのお客にわかりやすくし、不便さを解消する」(安藤隆司名鉄社長)。駅の敷地を南東側に拡張し、広さを約2倍の1万4000平方メートルにする。線路とホームを増やし、各方面の電車に乗りやすくする。中部国際空港へのアクセスを良くするため、空港行き専用ホームの設置も検討する。安藤名鉄社長は「リニア開業を最大のチャンスととらえている。開業に合わせて駅工事を完成させたい」という。
【栄との“共栄”】
名駅地区が発展する一方で、栄地区の活性化の必要性が指摘されている。名駅から東に約3キロメートルの栄は名古屋の商業の中心だが、名駅再開発のあおりを受けると懸念されている。
名鉄会長でもある山本亜土名古屋商工会議所会頭は「名駅が良くなるだけではなく、栄も含めて名古屋の魅力を高めなければ」と指摘。さらに「緑の多さなど東京にはない魅力が名古屋にはある」と東京との違いを生かすことを提案する。
栄は南北2キロメートルの都市公園「久屋大通公園」でイベントや祭りが開かれるなど、文化の発信地でもある。中日劇場を擁する中部日本ビルディングの20年代半ばの建て替えなど再開発が計画されている。文化と商業が融合した地区として、名駅との違いを生かした発展が求められる。
《私はこう見る/三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員 加藤義人氏−企業進出の受け皿に期待》
JRセントラルタワーズの開業以降、名駅地区のオフィス供給は増えたが、名古屋に本社を移転する企業はほとんどなかった。リニア開業で、名古屋に本社を移転する企業が増えることが期待される。名鉄が再開発で建てる新ビルは、空港アクセスの良さを生かせるので、企業進出の受け皿になる。
リニア開業は大きなチャンスだが、それまでの10年間で手を打たなければという危機感がある。今後は名駅西側に多い老朽化した建物のリノベーションを進めるべきだ。それらの建物に起業家が集まり、東側の大手企業と取引するようになれば、名古屋経済は活性化する。
東京との差別化も必要だ。自動車産業の集積を生かし、名駅や栄で自動運転の社会実験を進めるべきだ。リニア開業の頃には、自動運転の街として世界に発信できればいい。
(2017/4/11 05:00)