[ オピニオン ]
(2017/5/5 05:00)
宇宙産業の本格的発展のためには、民需獲得が欠かせない。
日本の宇宙開発はロケットと衛星の両面で、新たな段階に入りつつある。三菱重工業を主事業者とする「H3ロケット」は2020年の試験機打ち上げに向けた詳細設計が進んでいる。メーンエンジンを一新し、高価な補助エンジンである固体ロケットブースターを使わない“シングルスティック”構成で、打ち上げ費用を半減する。
衛星では三菱電機を主事業者とした次期衛星バスの開発が始まった。太陽光パネルを大容量化し、イオンエンジンで姿勢制御するオール電化型だ。自動車のシャシーに相当し、搭載機器を変えることで各種の実用衛星を組み立てる。21年に技術試験衛星9号として打ち上げ、今後の日本の衛星の標準となる。
いずれも日本の先端技術を結集し、海外の競合に劣らない性能を目指している。その上で通信衛星などの民需を獲得したいとしているが、現実にはハードルが高い。
H3ロケットでは、組み立て作業や打ち上げ間隔を半減する計画。同時に宇宙航空研究開発機構(JAXA)は現在2カ所ある発射場の一方を休止し、コストを削減する。年間数機という打ち上げのめどの大半は、情報収集衛星や準天頂衛星などの官需になる見込みだ。
また三菱電機は、衛星の増産に備えた新工場を建設する。ただ将来も「受注の多くは官需」(幹部)という。かつての日米貿易摩擦で、実用衛星の大半が「スーパー301条」の対象となり、大量生産で安価な衛星を供給する海外メーカーに市場を奪われた。いまだに日本勢は、十分なコスト競争力を獲得できていないのが実情だ。
日本の宇宙開発は、技術と安定性の両面で世界の最先端に並んだ。一時期の失敗の連続から脱した官民の関係者の努力には敬意を表する。しかし商用利用という世界の潮流の中では、いまだ後発であることを自覚しなければならない。早期に宇宙産業の基盤を確立し、世界の民需を獲得できる体制を目指してもらいたい。
(2017/5/5 05:00)