[ トピックス ]
(2017/5/16 05:00)
【前3月期の当期赤字、9500億円】
東芝の経営再建に複数の壁が立ちはだかっている。15日に2017年3月期の業績概要を発表したが、監査法人の承認は得られず、有価証券報告書を期限通りに提出できるかは不透明だ。再建の要とする半導体メモリー事業の売却には、協業先である米ウエスタンデジタル(WD)の“待った”がかかった。巨額赤字、債務超過、売却期限、上場廃止リスク―。“新生・東芝”の実現は、次々と降りかかる難題を乗り越えられるかにかかる。
【債務超過5400億円】
東芝は15日、監査法人の承認を得ない暫定値として、17年3月期連結決算概要(米国会計基準)を発表した。元子会社で原子力発電企業の米ウエスチングハウス(WH)の破産処理などで当期損益は9500億円の赤字となり、5400億円の債務超過になる見込みだ。16年4―12月期に続き監査法人の承認を得られず、市場からの信頼は下がる一方。上場廃止リスクも含め、東芝再建は困難な状況が続く。
巨額赤字について綱川智社長は「重く受け止めている。聖域なき保有資産の見直しも進め、18年3月期以降、早期に財務基盤を立て直す」と強調した。6月末に予定する関東財務局への有価証券報告書の提出については「法定期限までに提出できるよう、監査法人のPwCあらたとも協調して最善を尽くす」(綱川社長)と繰り返した。
しかし監査法人は巨額赤字に関連して、原発建設会社の米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターの損失を東芝側が認識した時期を疑問視し、調査を続けている。両社の溝が埋まらなければ、再度、決算を延長する可能性も否定できない。綱川社長は18年3月期の監査法人の変更について「今後のことは決めていない」との説明にとどめた。
東芝はすでに16年4―12月期に債務超過に陥っており、8月には東京証券取引所1部から2部に降格する見込み。18年3月期業績予想は当期利益が500億円と黒字転換の計画だが、5400億円の債務超過が続く見通しだ。そこで事業評価額2兆円ともされる半導体メモリー事業を売却し、財務基盤の回復を図る。ただ売却手続きが滞り18年3月期に債務超過を回避できなければ上場廃止となる。
【メモリー売却必須−社会インフラで安定成長狙う】
東芝は原発リスクの遮断と半導体メモリー事業の売却を進める一方、社会インフラ関連を中核とする“新生東芝”の安定的な成長を描く。売却を検討する半導体メモリー事業とスイスのスマートメーター(通信機能付き電力量計)大手、ランディス・ギアの売り上げを除く、17年度の全社売り上げは3兆6500億円、営業利益は500億円を見込む。
今後、売り上げをけん引するのは公共インフラ、ビル・施設、鉄道・産業システム、リテール&プリンティング事業などの社会インフラ領域だ。同事業を主力とするインフラシステムソリューション社の売り上げ見通しは16年度が1兆2600億円、17年度は1兆2200億円と底堅い。将来的に目指す東芝の姿について「地道な成長を重ね、安定的に稼いでいく」(綱川社長)としている。
また、東芝は7月以降に分社化し、子会社や関連会社は各事業会社の傘下に入ることで各事業の機動性を高める。火力発電やビル設備など、大規模工事に必要な「特定建設業」の許認可を更新する計画だ。“新生東芝”には社会インフラ関連事業のほかに、原発以外のエネルギー、ICT(情報通信技術)を加え、既存事業を最大化する。17年度内に再成長の体制を整え、19年度に売上高4兆2000億円を計画する。
そのため17年度は約400億円を費やし構造改革を実施するほか、メモリー事業以外で約1150億円の設備投資を投じる。平田政善専務は「18年度以降の成長に向けて、競争力強化の原資とする」と意気込む。
【上場維持、依然困難】
東芝の上場維持が困難な状況は依然として変わらない。特設注意市場銘柄の解除不可、有価証券報告書(有報)の提出の遅延、そして1年以内の債務超過の解消。上場を維持するための三つの壁はいずれも、解決には至っていないからだ。
直近の焦点は2017年3月期の有報について、PwCあらた監査法人の監査意見を付けた上で期限の6月末までに金融庁へ提出できるかにある。仮に期限延長が認められない場合は、7月末までに有報を提出できなければ、即時上場廃止となる。
監査をめぐっては米原発事業の損失リスクの認識時期をめぐり、東芝とPwCあらたの協議が難航しており、一時期は監査法人の交代も検討したほどだ。残り1カ月半の間で、平行線をたどる両社の協議がどこまで進展できるかがポイントとなる。
こうした状況に対して監査業界の関係者からは「現実的には、どこかで両社が納得できる形で折り合いをつけるしかないのでは」との声も聞かれる。
【銀行に影響−「要注意先」に引き下げ】
東芝の迷走は同社に融資する銀行の業績にも影響している。各行は取引先の格付けである「債務者区分」について、東芝の債務者区分を「正常先」から「要注意先」に引き下げたもよう。区分に応じ貸倒引当金を計上する必要があり、区分が悪化すれば損失が膨らむが、今のところ軽微にとどまりそうだ。
それを裏付けるように、メガバンクの姿勢は変わっていない。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長、三井住友フィナンシャルグループの國部毅社長は15日の決算会見でそろって東芝を「日本にとって重要な会社」と評価し支援継続を表明。三井住友トラスト・ホールディングスの大久保哲夫社長も「メーン2行と連携しサポートする」と語った。
ただ上場廃止となれば債務者区分や信用格付けが下がり、与信費用負担が跳ね上がる可能性がある。WDの国際仲裁裁判所への申し立てや東京証券取引所の特設注意市場銘柄など問題がくすぶり、予断を許さない状況だ。
みずほFGの佐藤社長は、WDが仲裁申立書を提出したことに関連し、「合弁会社の解釈について見解の相違があったのはご存じの通り。お互いにとって早期の解決が必要だ」と話した。一方で、東芝が公表した決算に監査の意見がつかなかったことは「これをもって融資のスタンスを変えるものではない」とした。
(2017/5/16 05:00)