[ オピニオン ]
(2017/6/15 05:00)
債権に関する規定を見直す改正民法が成立した。200にわたる項目は立場の弱い中小企業を保護する視点が盛り込まれた。改正内容への理解を深め、事業活動に積極活用したい。
約120年ぶりの抜本改正の狙いは大きく二つある。一つは社会構造の変化を踏まえた民法の“現代化”だ。「約款」など明治時代の制定当時には想定していなかった取引形態への対応や「(日本が参考にした)19世紀以前の欧州の遺産」と揶揄(やゆ)される時効制度の見直しはこれに当たる。未払い金の時効期間は5年に統一される。
もう一つの柱は、契約ルールの条文化だ。現在の民法は裁判で適用されているルールが定着しているにもかかわらず、明文化されていない。充実した法務部門を抱える大手企業は過去の判例から事案調査を行うことができるが、経営資源が限られる中小企業にとって「条文の外にあるルール」を読み解く労力はあまりに大きい。
また、中小企業にとっては、債権譲渡禁止特約の緩和や事業融資における保証人保護も経営に直結する。債権譲渡が容易になれば資金調達手段の多様化に道を開き、経営者以外が保証人になる場合は本人の意思確認を得なければ無効になる。経営者の身内が安易に保証人になることで、多額の借金を背負い、自己破産するといった悲劇に歯止めをかける効果は大きい。
改正作業は8年に及んだ。全国中小企業団体中央会は「中小企業経営に無縁ではないとの共通認識を醸成しておかなければならない」との問題意識の下、早くから積極的に意見発信してきた。改正民法は3年の周知期間を経て施行される。中小が理解を深め、円滑に施行されるよう、関係団体の役割が重要となる。日本商工会議所は全国でセミナーを開催予定という。
マイナス金利政策で中小企業の資金調達環境は改善し、売掛債権活用の必要性は薄れているかもしれない。ただ、多様な選択肢を備えていることを、中小自身が自覚しておく意味は大きい。金融機関との資金調達交渉でも有利に作用するはずだ。
(2017/6/15 05:00)