[ 機械 ]

【型技術】特集・金型製造・部品成形における最新の合理化技術/プレス金型機械加工工程削減の取組み-マツダ(下)

(2017/6/20 14:00)

  • 図3 工程の流れ

 当社では、顧客に愛され続けるOne&Only のメーカーになるべく、現在「ブランド価値経営」を強力に推進している。その中で生産部門では、モノづくりの考え方として、ビジネス効率を最大化すること=顧客への提供価値を高めつつ、量産準備領域におけるすべてのムダを排除した高効率な生産プロセスを確立することと定義し、その実現を目指している。われわれは「顧客に最新技術を折り込んだクルマを早くお届けする」ことも顧客提供価値の一つと考え、プレス金型製作領域における超短期製作の実現に向けたプロセス/技術開発にこれまで取り組んできた。

 プレス金型大物部品の機械加工では、「加工機の最高速度」での加工および下面/上面の「2段取り」で加工完了することを究極の姿と定義し、「加工工程数」、「加工時間」の削減に取り組んできた。本稿では、その中でも加工工程数の削減について取り組んできた事例を紹介する。

【マツダ(株) ツーリング製作部:上村勝利、栢野宏幸、藤川宏明、安楽健次】

→特集・金型製造・部品成形における最新の合理化技術/プレス金型機械加工工程削減の取組み-マツダ(上)

分解・再組付け工程の排除

 当社では、サイドフレームアウターを基本3 工程で成形しており、トリム・リスト、フランジ・ベンドなどの複合成形型になっている。その結果、金型構造が複雑化したことで一体加工できない影部をインサートブロックにして、本体から分解して単品で加工を行っていた。分解にあたっては、本体の加工基準をインサートブロックに写し、分解後に写した基準から加工することでインサートブロックと本体の相対精度を保証していた。この方法は、同じものを2 度組み付けることとなり、工程数が増えるばかりか、加工工数の割に期間を多く要し、金型製作期間に対して大きな影響を及ぼしていた。

1.基準写し方法の発想の転換

 分解後の加工工程を排除するため、先に影部を加工したインサートブロックを本体に組み付け、相対精度を保証する方法を検討した。その結果、インサートブロックの影部加工時に基準を加工し、本体組付け後にインサートブロックの基準の位置を測定し、ホルダ本体に写すという従来とは逆の工程を設定することで、影部加工における分解・再組付け工程を排除することができた(図3)。

2.切れ刃単品加工化

 上記で述べたようにサイドフレームアウターの構造は複雑で、インサートブロックが多数あり、これらを加工途中で分解・再組付けするための工程が数多く存在し、金型製作期間に対して大きな影響を及ぼしていた。この期間圧迫が特に大きいのが、トリム型である。この工程は、インサートブロックのリスト刃と切れ刃が複合しており、同時に組み付けて加工できない。そのため、リスト刃を分解後に切れ刃を加工しなければならない。この分解・再組付け工程を排除できれば、工程数削減ひいては期間短縮に大きく貢献できると考えた。

 この工程を排除するには、リスト刃か切れ刃を単体で加工できればよい。リスト刃は単体で加工すると、ブロック間の接合部に段差が出るため、難しいと考え、切れ刃単体仕上げの方を検討することにした。切れ刃単体仕上げ加工は、切れ刃精度をどう保証するかがポイントと考え、①位置決めノックピン穴から切れ刃部までの精度保証、②本体ホルダ、切れ刃側のノックピン穴位置精度保証が必要と考えた。このことから、以下の3 つの課題に取り組んだ。(1)切れ刃ノックピン位置決め構造の見直し、(2)ノックピン穴加工方法の見直し、(3)工程内品質保証方法の確立である。

(1) 切れ刃ノックピン位置決め構造の見直し

 切れ刃インサートブロックは、ノックピン穴で位置決めされており、ノックピンは対角で配置する構造になっている。この穴配置に対して設計時に製作要件を折り込むように検討した。要件としては、ノックピン穴を基準と平行にし、ピッチをできるだけ広くする。そうすることで、機械加工軸を1軸方向で動かすことができ、バックラッシュを抑え、機械誤差を最小限に抑えることができる。さらに、短い工具の首下で加工できる。かつ機上測定可能な構造に変更することで、さらなる加工誤差の最小化につながる製作要件として設計側へ打診した。

(2) ノックピン穴加工方法の見直し

①位置決めノックピン穴と切れ刃部の精度保証

 切れ刃の位置決めノックピン穴は、裏から加工しており、その穴を基準に表から切れ刃部を仕上げ加工している。このため基準を写す際に誤差が生じているが、切れ刃部はホルダに組み付けて仕上げ加工するため、取り代公差内に誤差が収まり問題にしていなかった。切れ刃の単品仕上げ加工で精度保証するには、この誤差を最小限にする必要があると考え、同一段取りで加工できないかを検討した。(1)の構造見直しによりノックピン穴と切れ刃を同一方向で加工できるようにした(図4)。

 同一段取りで加工した結果、ノックピン穴と切れ刃部の相対精度が公差内で保証することができた。

  • 図4 切れ刃製作工程

② ノックピン穴位置&径の精度保証

 ノックピン穴は、下穴、リーマの2工程で加工を行っている。この下穴加工では、ドリル工具の食付き時に曲がりが生じるケースがあり、ノックピン穴の位置精度を低下させる要因となっていた。ドリル工具では、狙いの位置精度を出せないことが加工検証でわかったため、新たな工具への見直しを検証した。選定条件として、芯厚が厚く、先端角が大きく、刃数が多い工具が曲がりにくいと判断し、数種類を選択し検討した。

 その結果、ドリルとリーマが一体となった工具が該当した。この工具で狙いの精度になるか確認をしたところ、ノックピン穴の位置精度、穴径ともに狙い値に入りばらつきも抑えられたため、この工具を新たに導入した(図5)。

  • 図5 工程選定と位置精度

(3) 工程内品質保証方法の確立

 切れ刃部の位置精度保証方法としては、NC データを活用し、てこ式ダイヤルゲージを使って切れ刃位置を測定していた。このため、作業者間で測定位置、測定数値にばらつきが生じており、切れ刃精度保証のためには、このばらつきをなくすことが必要であると考えた。そこで、切れ刃部のX、Y 数値を現場に提供し、加工工程内で保証させるとともに、てこ式ダイヤルゲージの使用ルールを標準化して作業間のばらつきをなくした。

 上記(1)~(3)を実型に折り込み確認したところ、切れ刃部とノックピン穴位置精度を保証することができ、狙い値に収めることができた。この施策により、トリム型における分解・再組付け工程を排除することができた。

 上記以外にもさまざまな工程削減の取組みを進めた結果、現在はサイドフレームアウターの工程154工程が90工程まで削減でき、これにより2週間の期間短縮につながった。まだまだ究極の姿にはほど遠く、今後も工程数削減活動を推進し、一日も早く究極の姿の実現を目指していきたい。

型技術 2017年3月号より

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/20 14:00)

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