[ 機械 ]

工作機械とレーザーの融合 その加工技術の展望(下)創造的加工技術の創出

(2017/6/23 13:00)

 レーザーを取り巻く環境が大きく変貌している。昨年、東京ビッグサイトで開かれたJIMTOF2016(日本国際工作機械見本市)からも分かるように、ここ数年で工作機械装置が急速に変化し、レーザーを積極的に取り込む動きが目立っている。従来の工作機械が高性能で上限付近にまで高度化したことに伴う一種の手詰まり感から、その活路がレーザーに向かっていると言える。既にレーザーでは先駆者の鍛圧機械分野に続いて、工作機械業界でもレーザーとの融合化が始まった。昨今では、あらゆる産業でレーザー適応の模索がみられる。生産加工装置として定着したレーザーとその加工技術を展望する。

【中央大学研究開発機構教授(レーザ協会前会長、現顧問) 新井 武二】

→工作機械とレーザーの融合 その加工技術の展望(上)ファイバーレーザーが主役に

光積層造形の実例

 光積層造形で作製した大型のタービンハウジングと小型のスクリューの例を図5に示す。

  • 図5 光積層造形技術による事例

 金属材料による3次元光造形技術で使用されるレーザーは400ワット―1キロワットで、ファイバーレーザーとの組み合わせが多い。積層造形には鉄系、チタン、アルミ系、その他の金属パウダーが最適な粒度で選択でき、異種金属でも高密度な造形が可能となる。特に航空、医療、精密部品に適応が検討されている。

 また、レーザー積層や光造形技術の後工程として工具で表面加工を施すことができる加工装置などもあり、独自の特色を出してきている。最近では大型の立体構造物から複雑模様の微細構造物に威力を発揮している(図6)。さらに、短パルスレーザーや超短パルスレーザーの照射で材料表面にトライボロジー(潤滑・摩擦・摩耗)的な機能を付加するレーザー表面改質や表面機能化などの技術が注目を浴びるようになってきた。

  • 図6 複雑形状の3Dプリンティング

超短パルスレーザー

 また、レーザーは無接触で極めて小さく集光できる光微小工具として、切削工具では不可能な微細で複雑な加工に使われている。精密微細加工はパルス幅が10ピコ秒以下で高ピークの短パルスレーザーを用いて微細な除去を行うもので、レーザー発振器はファイバーレーザーだけでなく短波長化や短パルスなどそれぞれレーザーの特徴を生かした微細加工機が開発されている。なぜ今、これだけレーザーが注目されているのかについては、図7にまとめたレーザー加工の多様性にそのカギがある。

  • 図7 レーザー加工技術の多様性

 超短パルスレーザーの応用が増えつつあり、従来、放電加工やメカ的な接触加工で加工していたものが、要求仕様(精度、熱影響=HAZ)が高まると、ピコ病、フェムト病などの超短パルスレーザーでの加工に移行する傾向にある。

 例えば、cBN(立方晶窒化ホウ素)工具などは人工的に作られたダイヤモンド結晶構造の材料で、メカ的な加工(砥石)ではチッピングや亀裂のリスクがあり、寸法精度を出すことが難しい。そこで表面起状の低減化で精密工具(エンドミル)の先端を加工するときなどに、工具の精密形態形成に超短パルスレーザーが用いられている。

 工作機械のすべり案内面、転造型の表面などでは、表面にマイクロオーダーの微細構造を施し、摩擦特性の制御、または安定的な摩擦特性や低摩擦の表面を創世するレーザーテクスチャリングを行うことなどが適用されている。また、現在でも多くの企業でその適用に向けた試行が行われている。このように、レーザーの使用では採算性が合わないなどどかつて言われた分野でも、その加工性能ゆえに広く使われるようになってきた。

IoTのメリット

 昨今、製造業におけるIoT(モノのインターネット)の活用がその進化に向け動き始めている。モノづくりでのFA技術とITの活用は世界的な傾向であり、工場間の作業分担のほか、加工機メーカーではセンシング技術を充実し、装置の運用・コスト管理、機械監視と保守および復旧の生産支援サービスとして、遠隔地からのリモート診断サービスや加工条件の適正化などを進めている。

 当初、ユーザー側が加工内容や稼働時間などを把握されることを望まない場合もあるとされていたが、故障時の診断や修復がタイムリーに行えるなど装置の維持管理にメリットは多大であり、順次受け入れられる傾向にある。

 このように、レーザー加工は他の機械加工法に比べてユニークであるために、かつて工作機械分野では特殊加工と称して異端児扱いするきらいがあったが、昨今は一変した感がある。レーザー加工技術が進み、ファイバー利用による微細加工技術など光の特性を巧みに利用した発展がなされている。また、レーザーでしか成し得ないような加工法も数多く出現し、広く産業機械に普及した。

 レーザーに対する期待は高く、単体機に加えて工作機械との融合によるさらなる展開が期待される。新しいレーザー応用の工作機械が出現して、創造的加工技術を創出し産業技術を大きく変えていくことが予想されている。

(一部写真は取材したJIMTOF2016の展示物を使用した)

(2017年2月3日 日刊工業新聞 掲載「レーザー加工機」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/23 13:00)

おすすめコンテンツ

ゴム補強繊維の接着技術

ゴム補強繊維の接着技術

事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント

事例で解決!SCMを成功に導く需給マネジメント

集まれ!設計1年生 はじめての締結設計

集まれ!設計1年生 はじめての締結設計

これで差がつく SOLIDWORKSモデリング実践テクニック

これで差がつく SOLIDWORKSモデリング実践テクニック

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

PR

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン