[ 機械 ]
(2017/6/27 13:30)
共同輸送はなぜ失敗するのか
前回調達物流改善は「物流コスト削減とジャストインタイムの両立」を実現できる旨をお話させていただいた。調達サイドから見れば、この2点が両立できるのであれば何も苦労してみずからが荷主となる調達物流改善を実施しなくてもよいかもしれない。その方策は皆無ではない。サプライヤーどうしによる「共同輸送」である。
共同輸送とは複数の荷主会社がトラックをシェアして運ぶことをいう(図1)。同一地域から同一方面へ向けて別々に走らせていたトラックを共同化しようというものだ。理屈上トラック積載率が高まるし、両社の荷を集めることで顧客の要求する複数回納入にも対応が可能となる。トラック台数も減るし物流コストも抑えられる。CO2排出量も削減できる。
このように良いことずくめの改善方策だから多くの会社が取り組んでいそうなものだ。しかし実態は一向に進んでいない。物流の会合では共同輸送を推進するのだが笛吹けど踊らず。その理由に迫ってみよう。
【Kein物流改善研究所 所長 仙石惠一(せんごく けいいち)】
→暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[1]/(下)
複数社で共同輸送を行う場合、どの会社が契約している運送会社を使うかという問題が存在する。3社で共同輸送を実施する場合、各社がそれぞれ異なる運送会社と契約しているケースがある。中には自社の物流子会社を使っている場合もある。積載率を向上してトラック台数を減らすことが共同輸送の狙いである。そうなると今までの運送会社は3社必要なく、2社か1社で済むことになる。では3社の内どの会社を使うことにするのか。各社では今まで自社で使っていた運送会社を使い続けたいという意向が働く。勝手を良く知った会社を使うことが何かと便利だからだ。ここでそれぞれの会社の思いがぶつかり実行に移せないケースがあるのだ。
顧客の納入指定時刻の調整が発生することも障害の1つだ。今まで単独でトラックを走らせていた場合には顧客の指定時刻に合わせて配車すればよかった。しかし共同輸送となるとそういうわけにはいかない。他の2社の配車タイミングを考慮しなければならないからだ。従来、A 社は顧客に11時到着、B 社は15時到着、C社は17時到着だったとしよう。このようなケースだったらどの時刻に合わせたらよいだろうか。到着時刻について顧客が同意してくれればあまり問題にはならないかもしれない。しかしそう簡単にうまくいくとは限らない。顧客が納得してくれなかったために共同輸送が成立しなくなることはいくらでもあるのだ。
配車のための情報システムがネックになることがある。先ほど同様、A社、B社、C社ともに別々の配車情報システムを保有しているとしよう。今回新たに共同輸送を始めた場合、どの会社のシステムを使うことになるのか。従来通り各社で新たな運送会社に情報を送ればよいのか。情報システムは統一しなければならないのか。その場合各社は投資が発生するのか。頭の痛い問題だ。
機密情報漏洩の不安が問題になることがある。輸送伝票などを介して価格情報が漏洩することを恐れているケースだ。たしかに競合企業間では機密情報に非常に敏感だ。物流コストを下げるというよりも機密情報漏洩を阻止する方が優先されることは十分に理解できる。情報の扱い方も大きな課題なのだ。
コスト削減効果の配分の仕方も課題だ。トラック料率を決める際に各社の物量が運送料率低減にどれだけ寄与したかは把握しづらいかもしれない。トラック料率は運ぶ荷のボリュームで大きく変わってくる。物量が大きい会社はそれだけ貢献したということで、割安の料率を、物量が少ない会社はそれ相応の料率としたいところだ。これをどのように判断し、どのように各社の料率と決定するかは大きな課題となる。
以上のように共同輸送を実施するにあたって数々の課題(図2)が存在することがわかる。これらの解決抜きに共同輸送の実現は難しい。実際にわが国では共同輸送が成功した事例は数えるほどしかない。調達側としてはサプライヤー側で共同輸送を通してジャストインタイム物流を実施して欲しいと願いたいところ。しかしそれは意外とハードルが高いことに気づいていただきたい。
購買部門の重要な役割とは
前回もご紹介した通り、本取組みは調達物流改善と言いつつも実際は「購買改善」であるということだ。つまり物流部門のみならず購買部門が本気になり真剣に取り組まないと成功しないのだ。そこで購買部門が果たすべき重要な役割(図3)について見ていこう。
第一に部品や資材(以下部品など)の価格建てに関わる役割について。今現在サプライヤーが届けてくれている部品などを引き取りに行くスタイルに変更する場合、部品などの価格から物流コスト分を差し引いた額を新たな調達価格にする必要がある。これについては前回もお話させていただいた通り、物流コストがいくらであるという明確な根拠がなければ価格改定は困難である。強引に調達側で物流コストを推測し、その分を改定すると下請代金支払遅延防止法(下請法)に触れる可能性があるので注意が必要だ。この下請法関係については次節で触れておく。
新調達品からは物流コストを明確に見積もってもらうようにしよう。具体的に部品1個あたり、資材1kgあたりの物流コストを〇円〇銭というように見積もりに明記してもらうことだ。これを明確な取引条件とすることが購買部門の責任となる。また見積もられた物流コストを精査できるようにバイヤーには教育が必要になるだろう。
購買部門の第二の役割は運送会社の選定(図4)だ。今までサプライヤーが個別に運送会社と契約し、自社まで部品などを運んでくれていた。調達物流改善では調達側がみずから運送会社と契約し、サプライヤーまで部品などを引き取りに行くことになる。そのオペレーションを実施してくれる運送会社を選定することが購買部門の仕事になるのだ。
従来は部品などの直接材料の購買業務は実施したことがあっても、運送のようなサービスの購買は未経験かもしれない。SQDCMの観点から運送会社の実力を正しく評価し、適正価格を決定する活動が購買部門に求められるのだ。日本にはおよそ6万3,000社の運送会社が存在する。その中から自社が取引するに値する会社を見つけ出すことになる。RFI(Request For Information)を活用し必要情報をできるだけ集めることに専念しよう。それと同時に運送会社の現場を訪問し、適切な仕事の仕方をしているかどうかを確認する。
さらにRFP(Request For Proposal)を投げて自社の物流にどのように貢献してもらえるのかについて提案プレゼンをしてもらおう。運送のプロの視点から自社物流の問題点を指摘してもらい、それを改善につなげられるようにしていきたいものだ。そして物流仕様書をきちんと作成したうえで運送会社から見積もりをもらう。この行為がRFQ(Request For Quotation)だ。仕様書があいまいだと見積もりもあいまいになる。物流の基本情報である物量や積み込み条件、荷降ろし条件、荷姿条件などできるだけ詳しく作成すること。RFQ作成にあたっては物流部門の協力を仰ぐと効率的かつ精度よくできることだろう。
(2017/6/27 13:30)