[ トピックス ]
(2017/8/2 05:00)
中国市場で日本メーカーの業績が好調だ。同国の2017年1―6月の国内総生産(GDP)は前年同期比6・9%増と政府目標を上回って推移している。日本メーカーの間では秋に開かれる5年に一度の中国共産党大会までは好調な経済が持続するとみる。ただその後については慎重な見方もある。(土井俊、後藤信之、編集委員・宇田川智大、西沢亮、孝志勇輔)
自動車/各社、成長取り込む 収益性確保が課題
トヨタ自動車の中国での販売は順調に拡大している。2016年は販売台数約121万4200台(前年比8・2%増)と過去最高。17年1―6月も過去最高の同約62万4000台(前年同期比5・4%増)で好調だ。グループ世界販売台数が年間1000万台超のトヨタだが「伸びているのは中国くらい」(トヨタ首脳)と重要な市場。中国では年間販売台数200万台の目標を掲げており、市場の状況を見極めながら確実に需要を取り込む構えだ。
ホンダは「内陸部ではまだまだ需要があり、長期的に伸びる」(八郷隆弘社長)と中国市場の成長性に期待を寄せる。同社は中国で17年に134万台の販売を計画。5年連続の過去最高を狙う。日産自動車も18年3月期に前期比9・3%増の148万台を見込む。
ただ、現地では17年1月の小型車への減税幅縮小などを背景に、減速感も漂う。欧州や地場メーカーを含めた販売競争が激化し、収益性低下の懸念もある。日産の西川広人社長は「いかに収益性を落とさず、販売を伸ばすかがポイント」という。
また中国政府は車メーカーに販売台数の一定数を電気自動車(EV)などの新エネルギー車(NEV)とする規制を早ければ18年にも導入する構え。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)など電動車の開発・販売が喫緊の課題だ。このため、ホンダは18年に中国専用EVを発売、日産も18年以降に廉価版EVなどを投入する計画だ。
電機/昇降機、価格競争激化 スマホ部品、底固く
日立製作所の17年4―6月期は営業利益が同期として過去最高となったが、通期予想は据え置いた。「中国景気が不透明」(西山光秋最高財務責任者〈CFO〉)なことが理由の一つだ。
中国では高層ビル建設ラッシュが落ち着き、高価格帯エレベーターの需要は減少。同国の不動産市況の動向は、日本の重電メーカーのエレベーター事業に影響を与える。
中価格帯製品の需要は底堅く推移する見通しで、各社は新製品投入などを活発化し事業拡大をもくろむ。しかし不動産投資の伸びは鈍化、エレベーターの価格競争は激しくなっている。さらに市況が悪化すれば各社は戦略の見直しを迫られる。
電子部品メーカーは中国スマートフォンメーカー向けの受注が底堅い。登坂正一太陽誘電社長は「ハイエンド(高級)製品の供給を本格化していく」方針を示す。
また今後はスマホに加え電気自動車(EV)の需要にも期待が集まる。ただ中国事業をめぐっては「過去に需要の減少に伴う在庫調整で痛い目を見た」(サンケン電気)だけに各社の警戒感は強い。アルプス電気は4月、EV向け需要の拡大を睨み中国工場増設を決めたが、「(EV市場は)政府の政策にも左右される」と慎重に生産規模を探っている。
産ロボ・建機/自動化向けロボ需要増 インフラ投資で建機回復
中国の産業用ロボット需要は堅調に推移しそうだ。人件費上昇などを背景に工場の自動化投資が活発化。主力の自動車産業以外にスマートフォンや家電など電子機器の搬送工程などで使われるロボットの引き合いが増えており、裾野も広がる。
中国政府は生産性の向上を促す計画「中国製造2025」を掲げ、情報技術やロボットなどを活用した製造業の高度化も後押ししている。足元の受注は堅調に推移しているが、10月以降は需要の一服感などから「慎重に見ている」(日系ロボットメーカー幹部)との声がある。一方、別の日系メーカー幹部は短期的に変動はあるが「3年は続くだろう」と見通す。
建設機械の需要はインフラ工事の活発化に伴って急速に回復している。秋ごろまでは好調な状況が続くというのが建機メーカー各社に共通する見方だ。17年3月期に中国建機事業の不振で経常赤字だった神戸製鋼所も巻き返しを狙っており、神鋼子会社のコベルコ建機幹部は「中国事業で(収益確保に向けた)プレッシャーはない」と自信をのぞかせる。
一方で、中国市場の先行きを読むのは難しい。しかも共産党大会が控えており、中国政府の方針が建機需要を左右する可能性が高い。そのため各社とも秋以降の動向を注視していて、慎重に見極めようとしている。景気の下支え策が続けば、引き続き中国市場は堅調に推移しそうだ。
鉄鋼/中国、構造改革進む 統廃合で日本の脅威に
中国の鉄鋼生産はインフラ投資などの政策効果に下支えされて好調に推移し、1―6月期には粗鋼生産量がこの時期の過去最高となった。政府が「地条鋼」と呼ばれる非合法な鉄鋼製品の製造設備を6月末までに全廃させたため、生産統計の対象になる正規品の需要が膨らんだことも大きな要因となった。
中国の鉄鋼業界は、日本の粗鋼生産量4年分に匹敵する過剰生産設備を抱え込み、国内で余った鋼材を大量に輸出して国際市況の悪化を招いた。日本の鉄鋼業界には今秋の党大会を乗り切れば、中国政府による景気へのテコ入れが弱まり、内需が減退して「余った鋼材がまた大量に海外に出回るのではないか」と警戒する声がある。
ただ、中国を主な震源とし、各地の鉄鋼業界に打撃を与えた過剰供給問題は、16年9月に中国杭州市で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも議題になり、サミット参加国を含む30余りの国・地域が対策を協議中だ。
中国政府も16年から5年以内に1億4000万トンと、日本の年間粗鋼生産量並みの生産能力を削減する方針を掲げる。地条鋼の全廃も構造改革の一環だ。今後、G20などの議論もにらんで改革圧力を強め、国有メーカーを軸とした業界再編にも力を入れると見られる。大型再編で規模拡大や不採算設備の統廃合が進み、収益性が高まれば「日本の脅威になる可能性がある」(国内鉄鋼メーカー関係者)との指摘もある。
(2017/8/2 05:00)