[ オピニオン ]
(2017/10/18 05:00)
地方発の創薬プロジェクトが動きだした。山口大学と山口県が共同で、がんや生活習慣病、さらには難病の治療法に挑む。新たな地方創生モデルとして成果が期待される。
プロジェクト名は「革新的コア医療技術に基づく潜在的アンメット・メディカル・ニーズ市場の開拓及び創造」。既存の医薬品や医療技術では効果的な治療ができない課題の解消に産学官が連携して取り組む。
まず患者数が多く治療薬ニーズの高い、がんや疾患生活習慣病をターゲットとする。山口大はがんに対する革新的医療技術として、「T細胞」に遺伝子改変技術を加えた「CAR―T細胞療法」のシーズを特許化している。これを活用し、バイオベンチャーと共同で大量培養法の確立と培養の自動化システムの基盤技術開発を目指す。
また患者数5万人未満の希少疾患である難治性てんかんや重症脳卒中などに対する新治療法を開発する。
プロジェクトは文部科学省の2017年度「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」に採択された。今後5年間に7億円を投じて医療分野の地方創生モデルを確立する。第1弾は細胞培養装置の改良や教材、物流産業などの整備で、第2弾として高度医療人材の育成や雇用、製剤など産業クラスター形成を視野に入れる。
山口大の岡正朗学長は「教育、機器整備、製造とやることは多い。プロデューサーもしっかり育てて地域モデルを確立する」と意気込む。
従来も山口県は、山口大の技術シーズに着目してさまざまな取り組みを具現化している。鋼板大手の東洋鋼鈑と10年以上かけて事業化した遺伝子解析製品はその代表例だ。山口大はロボットを使った細胞培養の実証実験を始めており、重篤な肝硬変症の患者に投与する肝臓再生療法の実用化を目指している。
創薬や新治療法などの確立には、膨大な時間とコストがかかるため、グローバル企業やベンチャーが担うのが一般的だ。常識を覆す取り組みが山口で動きだしたことに注目したい。
(2017/10/18 05:00)