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(2017/11/8 05:00)
コンテンツが支えるプラットフォームの可能性
知識の価値は測れないといわれる。知識とは物事に関する理解や認識のことで、知識を提供できる主体は学校などの教育機関であり、知識を獲得するのには苦労や努力が必要となる。だが、情報社会になり、知識が情報化され、また、MOOC(Massive Open Online Courses、大規模公開オンライン教育)などが発展し、知識を得る手段は多様化しているだけでなく、そのコストも低下している。
中国のスマートフォンメーカー「小米」(シャオミー)の雷軍最高経営責任者(CEO)は、かつて「風の強いところに立てば、豚も飛べる」と表現し、風の強いところ、つまり追い風が吹く分野に進出することが事業成功の鍵と説いた。これまで、中国の情報通信分野(ICT)では様々な追い風が吹いたが、2016年からの追い風、すなわち注目度が急上昇中の分野といえば、“知識”の有料化で、“知識”を売るプラットフォームの成長である。
ここでいう知識はノウハウや、オピニオン、経験、情報などを指している。こういったプラットフォームは、何でもネット検索ができる時代に、あえて知識習得がベースとなるコンテンツの創作と販売をビジネスモデルにする。情報が溢れる時代にあって、人生に必要な知識や有益な情報を購入することに価値を感じる人が増えているのである。
年収5億円近い大学教授も
「知乎」(Zhihu、2010年設立)は、ユーザー間の質問・回答を無料で行うサイトとしてスタートしたが、高度な質問と中身の濃い回答で知名度が上がった。最近ではユーザー達の知恵を絞った「知乎日報」や、タイムリーで有料の質問・回答ができる「知乎Live」が立ち上げられ、人気を博している。17年1月に1億ドルの融資を受けた「知乎」は、中国語世界に“知”を提供する、知識シェアプラットフォームを目指している。
「得到」(iget)は、16年5月にリリースされたアプリである。経済学や、経営学、論理的思考、育児関係などの分野の著名人による有料の講座を中心に、短時間に的確な知識を提供することを掲げ、リリース後1年間に700万人超のユーザーを抱えるようになった。「得到」で、10万人超の有料会員を擁する講師も少なくない。本当ならば北京大学でしか聴講できない経済学の講座を開設する北京大学の薛兆豊氏は、約20万人の有料購読会員を獲得している。それによって、薛氏の16年の年収は3000万元(約4億8000万円)超に達した。中国で一番の高給取りの教授となり、知識の有料化の可能性を示したといわれている。
実際のところ、中国では、「微博」(ミニブロッグ)や「微信」(WeChat、ウィーチャット)などを通じ知識を提供するための情報発信をする人が急増している。短期間に幅広い分野でユーザーを獲得できる新たなメディアの登場によって、各界の著名人から一般の人びとに至るまで、影響力のあるオピニオンリーダーが輩出している。これらのオピニオンリーダー達の“知”と影響力をビジネスにつなげる動きが活発化しているのだ。
16年は知識の有料化元年
「喜馬拉雅」(ヒマラヤ、2012年設立)は13年に移動端末向けのアプリ「喜馬拉雅FM」(ヒマラヤFM)を開発した。有料のラジオコンテンツに力を入れており、現在は4億人のユーザーを抱える。ヒマラヤFMで、トップ大学の先生から、評論家、オピニオンリーダー、草の根タレントまで多種多様な“知”を聴けることは、ユーザーが大幅に増える理由の一つになる。
“知識”を売るプラットフォームの成長で、2016年は、中国における「知識の有料化の元年」と呼ばれているが、知識有料化の時代が本格的に到来するか、これからが正念場になる。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/11/8 05:00)