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(2017/11/22 05:00)
期待できるか、オープンイノベーション
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とは、事業会社自らが社内外のベンチャー企業に出資・投資を行うための機能を持つ組織を指し、90年代から米国を中心に活動が活発化した。米国の情報通信技術(ICT)分野のCVCとしては、インテルキャピタル(Intel Capital)や、シスコインベストメント(Cisco Investment)、グーグルベンチャーズ(Google Ventures)などが有名である。一方、中国では、近年、ICT大手のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)3社や、パソコンメーカーのレノボ、スマートフォンマーカーのシャオミーなどによるベンチャー投資活動が盛んになっている【表】。
CVCの意義に関しては、企業や業種を超えた知識・技術の活用で、革新的な製品・サービスを生み出すオープンイノベーションの視点から論じられることが多い。中国のCVC活動の特徴は、主に三点が考えられる。
まず、投資リターンより戦略的な布石が重要視されることだ。2016年9月に検索大手のバイドゥが、本体から独立した「バイドゥベンチャーズ」(Baidu Ventures)を新たに設立した。2億ドルの資金規模をもって、人工知能(AI)分野の有力ベンチャーに積極的に投資するという。AIに特化する投資戦略は、AIを成長の柱にするバイドゥの事業戦略と呼応する。
次に、より豊かなエコシステム(生態系)を目指すことである。自社にないアイデアや技術、サービスなどを外部企業に求め、その企業を支援することで、相互の規模拡大を図る。アリババは、自社サービスだけでなく、積極的なベンチャー投資を通じ、中国人の暮らしの基本である「衣、食、住、行(交通)」に密着する様々なサービスのエコシステムを作り上げている。テンセントの強みは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だが、eコマースを主力事業とする「京東」(中国ネット通販市場において、アリババに次ぐ2番目の存在)に出資し、さらなるユーザーの増加と新たなサービスの開発に力を入れ、自社サービスの拡充に努めている。
最後に、新興の企業やサービスの台頭に乗り遅れることへの大手企業の懸念の高まりである。大企業の間では自社の地盤拡大とともに、投資競争も起きている。将来のユニコーン企業(非上場で企業としての評価額が10億ドル以上のベンチャー企業)を見逃さないように、競争相手が投資するベンチャーの同業他社に投資している。近年の配車アプリや、自転車シェアリングサービスのシェア争いも、大企業同士のつばぜり合いの側面がある。新興ベンチャーによる市場競争は、実はその背後にいる大手資本の競争でもあるわけだ。
従来のベンチャーキャピタル以外でも、潤沢な資本を持つ中国のCVCが、起業活動を促す重要な役割を果たしており、中国のイノベーションを支えるエコシステムの充実にも一役買っている。今回取り上げた事例はそのほんの一部に過ぎない。今後CVCの投資による異業種・異分野のオープンイノベーションが次々に生まれることが期待される。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/11/22 05:00)