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[ 科学技術・大学 ]
(2017/12/20 05:00)
三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国産ロケット「H2A」37号機を使い、気候変動観測衛星「しきさい」を種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から23日に打ち上げる。上空798キロメートルで地球を周回し、雲や大気中の塵(エアロゾル)、植生などを観測するなど、地球環境の調査が目的だ。精密な観測技術を生かし、地球の気候システムの理解を深め、地球温暖化の抑制に貢献することが期待されている。(冨井哲雄)
【19色に対応】
過去100年で、世界の平均気温が0・85度C上昇したという報告があり、最悪の場合今後2・6―4・8度C上昇すると予想されている。こうした地球の気温上昇を予測するにも、地表に届く日射量に影響するエアロゾルや植物の二酸化炭素の吸収能力などを調べることが求められていた。
しきさいに搭載する「多波長光学放射計」(SGLI)は二つの放射計部からなり、近紫外から赤外域までの波長領域をカバーする。19種類の色を観測できるセンサーを搭載しており、解像度は従来の気候変動観測衛星の2―4倍の250メートル。さらに1150キロ―1400キロメートルの幅の領域をいっぺんに観測できる。2日間で全地球を観測できる計算だ。
エアロゾルをはじめ、植物や積雪、海面水温などの変化が気候変動に及ぼす影響の調査に活用できる。複数の波長帯を調べることでさまざまな現象の観測が可能だ。JAXAの杢野(もくの)正明GCOMプロジェクトチームプロジェクトマネージャは、「地球のエアロゾルや植生を調べることは挑戦的な取り組みだ。気候変動問題にも貢献したい。さらに26種類のデータによって地上のユーザーのために役立てたい」と語る。
【黄砂・赤潮も】
こうしたデータは基礎科学的な知見を得るだけでなく、産業への応用も期待される。水田と森林の区別、黄砂の飛来や赤潮などを観測できる。「赤潮の発生場所から養殖の場所を移すなど、人々の生活に関わる部分にも生かせる」(杢野氏)。
さらに、しきさいの偏光観測の機能を利用することで、地面からの反射光の影響を減らし、大気中のエアロゾルからの反射光のみを観測することも可能になった。これにより、今まで難しかった陸上でのエアロゾルの測定もできる。
【科学外交に貢献】
また、千葉大学環境リモートセンシング研究センターの本多嘉明准教授は、「精密な気候観測データは海外からも注目されている。気候変動による食料不足の予想や対策などにも役立つのではないか」と、しきさいが科学技術外交に貢献するとの見方を示す。
しきさいはJAXAが開発を手がけ、NECが衛星の製造を行った。打ち上げや初期運用を含めた開発費は322億円。国産ロケット「H2A」で超低高度衛星技術試験機「つばめ」と相乗りし打ち上げる。
(2017/12/20 05:00)