[ ICT ]

【電子版】米アップル、マイクロLEDディスプレー開発に着手

(2018/3/19 10:30)

  • 米アップルのディスプレー研究開発拠点(3月15日、カリフォルニア州サンタクララ=ブルームバーグ)

 米アップルは自社で設計・製造する独自の端末用ディスプレーの開発に乗り出している。同社にとってディスプレーの内製化は初めて。同社は試験目的で幾つかのディスプレーを生産するため、カリフォルニア州の本社近くにある秘密の製造拠点を利用している。この計画に詳しい複数の関係者が明らかにした。

 同社は次世代のマイクロLEDディスプレーの開発に大規模投資を行っていると、関係者が社内の製品計画段階であることを理由に匿名を条件に語った。マイクロLEDディスプレーは現在使われている有機EL(OLED)ディスプレーとは異なる発光化合物を使い、実現すれば将来の端末は一段と薄型で高画質、省電力消費となる可能性がある。

 関係者によると、有機ELディスプレーよりも製造がずっと難しいことから、同社は1年ほど前にこのプロジェクトを中止しそうになったこともあったが、プロジェクトはそれ以降前進し、技術は現在は進展した段階にある。ただ、消費者が完成品を目にするのは恐らく数年先になる見通し。

 この野心的事業は同社が主要部品の設計を内製化しようとする動きの一環で、最も新しい取り組み。アップルは数年前から自社の携帯端末向けに半導体を設計してきた。同社の今回の取り組みは、サムスン電子やジャパンディスプレイ、シャープ、LGディスプレイなどのディスプレーメーカーに加え、画面のインターフェースを手掛ける米シナプティクスなど、さまざまな現在のアップルサプライヤーに長期的に打撃を与える可能性がある。また、有機EL技術開発で主導する米ユニバーサル・ディスプレイにも影響を及ぼし得る。

 ブルームバーグの報道を受けてアジアのディスプレー各社の株価は軒並み下落。ジャパンディスプレイは一時4.8%、シャープは同3.4%、サムスン電子は同1.4%それぞれ値を下げた。

 マイクロLED技術を握ることができれば、アップルは成熟しつつあるスマートフォン市場で突出し、これまで優位を誇ってきたサムスンなどのライバルを打ち負かすのに役立つ可能性もある。ディスプレーの試験を手掛けるディスプレイメート・テクノロジーズを率いるレイ・ソネイラ氏は、自社で設計を行うことはアップルにとって「絶好のチャンス」だとし、「有機ELディスプレーや液晶は誰でも買うことができるが、アップルはマイクロLEDを自社で持つことができる」と指摘した。

 ただ、実現は容易ではない。新ディスプレーの大量生産には新規の製造設備が必要となる。最終的にアップルは、製造の混乱で利益を損なうリスクを最小化するため、新ディスプレー技術の生産を外部委託する可能性が高い。カリフォルニア州の拠点は大量生産を行うには小さ過ぎるものの、同社は独自開発の技術をパートナーと共有することはできるだけ先延ばししたい考えだ。関係者の1人は「われわれは多額の資金をこの拠点に投入してきた」と述べ、同拠点は「開発段階で全てを内製化するには十分な大きさだ」と述べた。アップルはコメントを控えた。

  • マイクロLED技術がアイフォーンに搭載されるのは、少なくとも3-5年先になるという(アイフォーンX、ブルームバーグ)

 スマートフォンなどの小型端末には現在、基本的に汎用ディスプレー技術が使われている。アップルウオッチの画面はLGディスプレイ製で、グーグルの携帯電話「ピクセル」のディスプレーもそうだ。アップル初の有機EL搭載の携帯電話「iPhone(アイフォーン)X(テン)」にはサムスンの技術が使われている。携帯電話メーカーはディスプレーを微調整して自社スペックに合わせてきたが、アップルは今回初めてディスプレーを最初から最後まで自社で設計している。

 今回の秘密の取り組みのコードネームは「T159」で、アイフォーンとアップルウオッチのディスプレー技術を統括するリン・ヤングス氏が責任者を務める。アップルにとっては初の形態である6万2000平方フィート(約5760平方メートル)の製造拠点はカリフォルニア州サンタクララにあり、クパチーノの本社キャンパス「アップル・パーク」から車で15分の場所に位置する。サンタクララの拠点では約300人のエンジニアがマイクロLEDディスプレーの設計と製造を進めている。アップルのエンジニアがサムスンなどのサプライヤー製のディスプレーと最終的に置換できる自信が高まったのは、ここ数カ月になってからだ。

 関係者によると、マイクロLED技術がアイフォーンに搭載されるのは、少なくとも3年から5年かかる可能性が高い。アイフォーンはアップルの稼ぎ頭だが、新ディスプレー技術は最初にアップルウオッチに搭載されるという前例がある。有機ELディスプレーは14年に発表されたアップルウオッチに搭載されていたが、アイフォーンXに採用されたのは昨年になってからだ。

 マイクロLEDを世界に公開する準備が整うまで、アップルは少なくとも公には依然として有機ELに全力を注ぐことになるだろう。同社は有機EL搭載アイフォーンの第2弾を秋に発売する計画だ。大型の6.5インチモデルとなる見通しで、同社はサムスンのほかLGにも生産委託先を拡大しようと取り組んでいる。(ブルームバーグ)

(2018/3/19 10:30)

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