[ オピニオン ]
(2018/3/22 05:00)
手前味噌で恐縮だが、日刊工業新聞電子版に2月6日付で掲載された「日本の製造業『壊れつつある』−米紙が分析」という記事に対し、今でもかなりのアクセスが寄せられている。ただ残念なのは、これが自社記事ではなく、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版が報道した内容を時事通信が要約・配信したものという点だ。
ともあれ、こうした記事が注目されるのは、「海外メディアからどう見られているか」という日本人特有の心理の部分が大きいと思う。それに加え、シャープや東芝はじめ、かつての一流企業の凋落とアジア企業の台頭、さらに国内メーカーによる品質データ改ざんなどが相次いだことで、「日本企業は大丈夫か」といった漠とした不安の広がりが背景にあるのかもしれない。
もちろん、記事中で指摘された「責任は現場任せで、現場の悪い情報が経営に上がってこない」といったタコツボ型の組織運営や経営手法の部分には、大いにカイゼンが必要になるだろう。一方で、サービス化やデジタル化、シェアリングなど、製造業をめぐる大きなトレンドの変化に対する感度の鈍さも改めなければならない。
例えば、インダストリー4.0をはじめとするモノづくりのデジタル化。野村総合研究所の主席研究員で、この電子版に「経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~」というタイトルの記事を連載している藤野直明氏は、世界で急速に進むデジタル革命の中で、日本企業特有の「成功の逆襲」に警鐘を鳴らす。
藤野氏によれば、インダストリー4.0などについて日本企業の製造現場に近いところから聞こえてくるのは、「うちは匠の技があるから大丈夫」「日本は現場での改善活動を主体にモノづくりで強みを持つ。欧米のまねや後追いで日本の競争優位は維持できない」といった声。こうした根拠のない自信を耳にするたびに、第二次大戦中の日本軍はじめ日本の組織における構造的・精神的な弱点をえぐり出し、名著と言われる『失敗の本質』を思い起こすという。
その上で、同氏は「過去の成功体験に酔って判断を誤ってはいけない。冷静に海外動向の調査・分析を行い、経営層のマインドセット(考え方)の変革と中長期の戦略プランを構築していくことが重要だ」と訴える。
成功の逆襲に見舞われたのは日本企業ばかりではない。125年以上の歴史を持ち、ついこの間まで米国を代表する優良企業だったゼネラル・エレクトリック(GE)。先のWSJは2月23日の記事で、GEが経営不振に陥った要因として、「プラスの情報だけ選んで提供するやり方」が、経営上の問題から目を背ける結果につながったと分析し、ジェフ・イメルト前CEOの経営手法を「成功劇場」と槍玉に挙げた。
とはいえ、製造業のデジタル化はじめ、イメルト時代のGEの取り組みが極めて先進的だったのも事実。IoT基盤OSでも買収企業のソフトとの融合に手間取ったりシステム開発費が膨らんだり、といったトラブルに見舞われたようだが、データを収益化するという産業向けビジネスの変革の方向性を形にした功績は大きい。前出の藤野氏も「イメルト氏のやったことは10年後に必ず評価される」と太鼓判を押す。
つまり、目先の時間軸でいうと経営的には失敗だったかもしれないが、未来に向けて成功の種はしっかり蒔かれていたのだ。
成功というのは厄介だ。一時的な現象なのに、物事がたまたまうまくいっていると、成功は長らく続くものと人は勘違いしてしまう。実態は逆で、特に最近では新しいテクノロジーやサービスモデルを提げて異分野から既存の市場に参入する企業が多いことから、変化のスピードはもちろん、市場でのプレーヤーの入れ替わりもはやくなっている。
「生きるか死ぬかという瀬戸際の戦い」。いみじくもトヨタ自動車の豊田章男社長は昨年11月の新役員人事と組織改正発表の際のコメントで、こう危機感をあらわにした。というのも、電気自動車(EV)、自動運転、シェアリング、モビリティーのサービス化…と、近い将来、自動車はその在りようがもっとも大きく変わりそうな産業であるからに他ならない。
変化の著しい時代、時代の波に飲まれて壊れていくのではなく、変化には変化でー。昨日の成功モデルを自ら壊して新しいものに作り変えていく、あるいは変化に機敏に対応し、変化を先取りしていく大胆さとスピードが、21世紀の企業経営には求められている。
(藤元 正)
(2018/3/22 05:00)