[ オピニオン ]
(2018/4/5 05:00)
政府は6月にも新たな財政健全化計画を策定する。2020年度に国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を黒字化する当初の計画実現を断念し、黒字化時期の先送りや一段の歳出改革に取り組むことになる。ただ学校法人「森友学園」問題で内閣支持率が低下する中、家計の痛みを伴う歳出削減にどこまで踏み込めるかは不透明だ。仮に踏み込み不足なら社会保障制度をめぐる将来不安は払拭(ふっしょく)されず、懸案である個人消費の本格回復が遅れる懸念が出てくる。安倍晋三政権には財政健全化に向けた確かな道筋を示してもらいたい。
財政健全化の遅れが決定的となったのは2017年10月に実施された第48回衆院選。自民・公明両党は2019年10月に予定通り消費増税を実施するものの、増税による税収の一部を幼児教育・保育無償化に充てる政権公約を掲げて大勝した。本来なら国債償還に回すはずの財源が減額することになり、政府が掲げる財政健全化目標は修正を迫られることになった。
経済財政諮問会議(議長=安倍首相)によると、18年度のPB赤字に対する国内総生産(GDP)比率は15年7月の試算でマイナス1・7%程度だったが、今年1月の試算ではマイナス2・9%程度に悪化。18年度のPB赤字額は想定より6兆9000億円拡大すると試算されている。成長率の低下により税収が想定より伸びなかったほか、半ば常態化した補正予算を編成し続けるなど、各省庁による歳出圧力を抑制できなかったためとみられる。
足元では戦後2番目のいざなぎ景気(57カ月)を超えた緩やかな景気拡大が続くものの、16年度の税収が7年ぶりに減少したように成長依存の財政健全化には危うさが残る。安倍政権は財政健全化の指標として、PB黒字化とは別の目標も掲げており、経済成長に伴う税収増に期待を寄せていた。公的債務残高に対する名目GDP比率を段階的に低下させていくもので、分母のGDPが拡大すれば指標は改善する。歳出削減よりも税収に依存していることがうかがわれる。
政権はこれまで慎重だった医療・介護分野の歳出削減などを通じて、社会保障財源を確保する必要がある。懸案である個人消費がなかなか本格回復しなのも、社会保障制度の持続可能性をめぐる将来不安が家計にくすぶっている側面がある。財政健全化は巡り巡って消費喚起の効果も期待できるはずだ。
安倍政権は19年10月の消費増税を確実に実施できる経済環境を整えるのはもとより、税率10%超の増税の可能性についても検討する必要がある。経済同友会の小林喜光代表幹事はかねて「(消費税率が)10%で終わりではないというメッセージを出すことが必要」だとし、一段の消費増税の必要性を訴えている。いつまでも、歳出削減や増税の"痛み"から逃げていては財政健全化はおぼつかない。
安倍首相は6月にもまとめる財政健全化計画について「毎年度の予算編成を(健全化と)結びつける枠組み」創設の必要性を指摘する。だが11月の自民党総裁選も控え、既得権益が絡む歳出の削減にどこまで切り込めるかは不透明を否めない。
安倍政権は森友学園問題を早期に解明し、政権の看板政策である働き方改革や生産性革命を推進したい。主要国中でも低い潜在成長率を引き上げつつ、歳出改革を軸に財政健全化への道筋をつける。政権はこの"二兎"を追い続けてほしい。(神崎正樹)
(2018/4/5 05:00)