[ オピニオン ]
(2018/4/12 05:00)
米トランプ政権が鉄鋼・アルミニウム製品に対する追加関税に続き、ハイテク分野の中国製品を主な対象とする輸入制限措置を打ち出した。知的財産権の侵害に対する制裁という表向きの理由のほかに、先端技術分野における中国の成長を押さえ込む狙いがあるとされる。そうであれば革新的な技術の創造を成長戦略の柱に掲げる日本としても、無関心ではいられない。日本に矛先が向けられる事態に備え、守りを固めておく必要がある。
トランプ政権は日本製を含む鉄鋼・アルミ製品に25%の追加関税を課す輸入制限措置を発動したのに続き、中国の産品1300品目に対して知財権の侵害を理由に、25%の追加関税を課す方針を表明した。中国も米国の農産物や自動車など106品目に、25%の関税を新たに課す対抗措置を打ち出すといった具合に、両国間で報復の連鎖が続いている。
トランプ政権の保護主義的な政策の背景には、米国が抱える巨額の貿易赤字を減らしたいとの思惑があるとされる。鉄鋼・アルミ関税では米国との間で北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を進めているカナダやメキシコ、同じく2国間FTAの見直しに前向きな態度を示していた韓国などが当面、適用対象から外された。鉄鋼・アルミを“人質”に取り、相手国から市場開放を引き出そうという意図が読み取れる。
米商務省によると2017年の米国の貿易赤字は、前年を8%余り上回った。貿易赤字の削減を公約に掲げているトランプ政権にすれば、秋の中間選挙までに目に見える成果が必要なのだろう。
ただ、トランプ政権の狙いは、足元の貿易不均衡是正だけではなさそうだ。知財権の侵害を理由とする対中制裁の対象1300品目には半導体や産業ロボット、航空・宇宙機器など今後の成長が見込まれるハイテク製品が多く含まれる。中国が安価な汎用品を大量供給する「製造大国」から、国際競争力のある高付加価値産業が集積する「製造強国」への転換を重要政策に掲げていることを意識したものと考えられる。
トランプ政権の意図が、こうした産業構造転換を目指す中国の出ばなをくじくことにあるとしたら、米中関係の先行きは楽観できない。成長分野の覇権をめぐって、対立がさらに深まる可能性がある。
「科学技術・イノベーションの創造」を重点課題と位置付ける日本にとっても、人ごとではない。トランプ政権の矛先がいずれ日本に向けられ、先端技術分野で貿易摩擦の火種が生まれる可能性がある。対中制裁では知財権の侵害が根拠となったが、こうした理由に限らず、警戒を強めなければならない。
石油などの天然資源に乏しく、労働人口の減少も進む日本の産業界にとって、技術力は持続的な成長を支える生命線。だが、いかに革新的な技術を生み出し、新しい価値を創造しても、米国市場の門戸が狭まれば、成長の足かせになりかねない。政府はこうした事態も想定し、日本経済の成長を阻む動きには、厳しい態度で臨む必要がある。(宇田川智大)
(2018/4/12 05:00)