[ その他 ]
(2018/4/23 05:00)
知的財産権の一つ、商標権。商標はブランド戦略に欠かせない、ブランドイメージの伝達の役割を持つ。需要者の関心を引く特徴のあるネーミングをすることに加えて、商標権を保護することが大切だ。3月に話題となった「そだねー」の商標出願を例に、商標のしくみと主要各社の商標データベースを紹介する。
蓄積された信用を保護
商標とは、自らの提供する商品やサービスを他人のものと識別するために使用する目印のこと。需要者は商標を見てどの会社のどの商品かを見分けることが多い。やがては「このマークがついた商品なら買っても失敗しないだろう」と信用が結びついていく。
このような商標を誰でも使えるようにしてしまうと、目印によって買いたい商品を見分けることができなくなってしまう。そういった事態を避けるため、商標を独占的に使用できる商標権を持たせることで商標の識別標識としての機能を保証し、商標に蓄積された信用を保護する。
商標権は需要者が商品やサービスの出所を混同しないようにするためのもの。自らが商標登録すると他人による同一または類似する商標の使用を禁止できる。
ここで注意したいのが、商標は自らの商品を他人のものと識別するための目印として使用するものであって、その文字や言葉の使用をあらゆる場面で独占できるものではないということだ。
「そだねー」の出願重なる
今年3月、平昌五輪・パラリンピック開催時にカーリングの日本女子代表が流行させた言葉「そだねー」を数社が商標出願し、話題となった。
商標出願の際は商品またはサービスの区分を指定する必要がある。区分は45の類に区分されており、例えば、ある商標を洋服に使用したい場合、第25類の被服の区分を指定する。今回のそだねーは第30類の菓子およびパンの区分だけでも3社以上が出願している。
商標法では「先願主義」が採用されている。これは特許庁に対して最初に商標登録の出願を行った者が優先的に保護されるという制度。第30類の区分では北見工業大学生活協同組合が最初となる2月27日に出願している。
北見工大生協はそだねーと書かれたTシャツを作り、400枚以上販売している。北見工大生協の白岩研治専務理事は「商標登録されたら北見の菓子店と共同でお菓子を開発したい」という。
北見工大生協が出願した2日後、北海道帯広の菓子店・六花亭が第30類の「菓子およびパン」の区分で出願した。3月22日に同社が出したコメントでは、出願中の商標「北加伊道」を例に他社からの使用の申し出に応える姿勢を見せている。
流行語は拒絶査定の傾向
はたして、流行語は商標として登録できるのだろうか。商標はそのネーミングを考え出した人でなくても出願できる。流行語に関してはその言葉が流行した際に出願が重なることが多い。過去にも「おもてなし」「忖度(そんたく)」などの商標が、多くの人によって出願されている。特許庁は流行語の商標に対して拒絶査定する傾向にある。その商標が流行語と全く関係ない人の目印として機能しないのではないか、といった判断を下しているようだ。
日本商標協会の古関宏事務局長は北見工大生協をはじめとするそだねーの商標出願について「どの出願人も独占適応性がないため登録されないのではないか」と話す。独占適応性とはその人が商標を独占することが適当かどうかということ。使用したい人が多くいる中、一つの会社や個人に独占させるのはよくないという特許庁の判断が働くはずだという。今回の件で独占適応性があるのは誰なのかというと、古関事務局長は「北見市を拠点にしているチームがはやらせた言葉なので、北見市ではないか」と答える。町おこしのために使用すれば地域振興を目的に使用する商標として、登録される可能性はあるという。
商標権に詳しい西村雅子弁理士は「拒絶となっても、実際に商品があって地域振興に役立っているという正当性が認められれば登録もあり得る」という。特許庁の拒絶という判断に対する反論として、すでに商品があって自らの商品の商標として機能しているという識別性を主張できれば、登録の可能性が開けるという。
商標法では審査で登録要件を満たしていないと判断されると、特許庁から出願人に拒絶理由が通知される。出願人はこれに対して意見できる機会があり、登録要件を満たしていると考える理由について意見書の形で提出できる。そこでも拒絶理由が解消していないと判断され、拒絶査定となっても不服審判を請求できる。拒絶の理由を覆すことができない場合は拒絶審決となり、不服があれば裁判所に出訴できる。この間に自らの商品の商標として十分に機能していることが認められれば、登録される可能性はある。
今回の審査でそだねーは独占できないという判断が下れば、誰もが安心して商品の目印として使用することができる。もっとも、審査には7~8カ月かかり、結果が出るころにはブームが過ぎ去っているかもしれないが。
特許庁の審査結果が出るのは秋ごろの見込みだ。
各社で独自のサービス提供
商標出願の際は、その商標の登録可能性や他人の登録商標の有無を事前に調べることが重要だ。
NRIサイバーパテント(東京都千代田区)は商標検索サービスを提供する。商標の類似判断基準は外観、称呼、概念によって総合的に判断される。同社は称呼の検索に独自の検索ロジックを適用している。音韻学に基づき類似度を算出するもので、商標の称呼を入力して検索すると、特許庁に出願された商標が類似度の高い順に表示される。高野誠司社長は「特許庁の審査基準に加えて審判で拒絶となった例を基に、類似度を重みづけしている」という。
商標データの「全文検索」もできる。権利者、指定商品、出願日、権利期間など26の検索項目を組み合わせて検索できる。これにより特許庁の審査傾向の確認や競合他社の出願傾向の調査など、目的に合わせた検索が行える。検索結果を出力する形式はPDF、エクセル、ワードと数種類あり、報告書の作成時などデータを加工しやすくなっている。
日本パテントデータサービス(東京都港区)は1月に商標の検索サービスを開始した。同社は特許データベース(DB)を提供し50%以上のシェアを占める。これまで特許のDB内にあった商標のDBを単独で立ち上げた。商標専用のため、商標調査に必要な項目だけをまとめ、使いやすく設計されている。システムは自社開発しているため開発スピードが速い。ユーザーのニーズをいち早く反映し、月に一度更新して改良を重ねている。
同サービスは相場が4―5万円のところ月額5000円の使い放題で提供する。コストダウンできる理由について仲田正利社長は「料金を安くすることでユーザーを増やす。1000社契約があればこの値段でも十分に利益が出せる」という。ブランディング部の宮脇秀兼課長代理は「3年以内に1000社との契約を目指す」という。
【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全9回連載予定です。ご期待ください。
(2018/4/23 05:00)