[ オピニオン ]
(2018/4/23 05:00)
秩父盆地にある社員十数人のベンチャーウイスキー(埼玉県秩父市)に今春、6人の若者が入った。うち1人は味や香りの決め手となる樽(たる)職人に育てる。年内に、初めて地元のミズナラ材を使い、酒の仕込みに入るという。
自社ブランドを『イチローズ・モルト』と命名した社長の肥土(あくと)伊知郎さん。創業は2004年と日が浅いが、洋酒界では“時の人”だ。「高品質なものを作りたい」一心で試行錯誤を繰り返し、今年の英国品評会「ワールド・ウイスキー・アワード」では、2年続けて部門の世界最高賞に輝く。
小規模蒸溜所ながら自前の工房、職人を擁する。樽の材料のミズナラは従来北海道産を使ってきたが、秩父産にし「そもそもの強い個性に磨きがかかる」とファンは期待する。
肥土さんの実家は洋酒も扱う酒造会社だった。その後、経営難に陥り、他人の手に渡った。肥土さんは廃棄寸前だった樽や設備を守ろうと起業した。
この15年間を「苦しみより面白さが上回っていた」と振り返る。埼玉産業人クラブ主催の「第14回埼玉ちゃれんじ企業経営者表彰」で19日、埼玉県知事賞を受賞した。家宝をベースに、プロが認める品質を生んだベンチャー魂に、学ぶところは少なくない。
(2018/4/23 05:00)