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4月18日は「発明の日」/中国の最新知財事情

(2018/4/25 05:00)

業界展望台

西村あさひ法律事務所 上海事務所 代表 弁護士 野村高志

急速な発展と多面化 

  • 西村あさひ法律事務所 上海事務所 代表 弁護士 野村高志

近年の中国の急速な変化・発展は、現地にいても日々驚かされる。知財においても同様であり、キャッシュレス化やシェアビジネスの広がりなど、ネットと携帯電話に絡む技術革新は先進国をしのぐ勢いを見せる一方、昔ながらの模倣品ビジネスも衰えを見せない。日本の「常識」を無理に当てはめるのではなく、実情をよく知ることが、中国理解には欠かせない。最新の知財事情と、日本企業の対応を紹介する。

世界有数の出願大国に

【知財大国・中国―登録出願の急増】

中国は特許においても世界有数の出願大国であり2017年は約138万2000件だった。実用新案の出願は約168万8000件、意匠出願も約62万9000件に上る。商標の出願件数は17年は約553万9000件(前年比57%増)で、出願件数・伸び率とも過去最高となった。

いずれも日本の出願件数をはるかに上回る(表1)。

また近年は、中国企業による出願件数が急増しており(特許出願件数トップ10は全て中国企業)、知財訴訟も増加している。17年の知財関連訴訟の新規受理件数(一審)は約21万3000件だった。なお近年の日本における知財関連民事訴訟の新規受理件数は500件程度である。

中国企業の研究開発費用も急増しており、中国政府・中国企業がともに知財戦略を重視していると言える。

【実用新案の積極的活用】

日本との相違点として特筆すべきは、実用新案の出願登録が極めて多い上、訴訟等の権利行使が積極的になされていることである。実用新案は特許と異なり実質審査がないため、早期に登録し権利行使することが可能である。実際に中国企業は、実用新案侵害訴訟を積極的に提起している。100万元(約1600万円)を超える高額の損害賠償請求が認容された訴訟事例も多数あり、特許と比べても実務上のメリットがあると言える。

最近では、日本企業の中にも、中国での積極的な実用新案出願を検討する場合が増えているように思われる。

【ノウハウで守るか登録出願するか】

中国企業がR&D(研究開発)に力を入れて技術力を向上させつつ、その特許・実用新案出願を積極的に行う中で、日本企業の知財戦略も見直しを迫られている。

自社のコア技術をノウハウとして秘匿してきたところ、競合の中国企業がキャッチアップしてきて、同様の技術を特許登録してしまうという事態も現実に起こりうる(逆に侵害訴訟を提起されるリスクが高まる)。中国における特許等出願戦略を再考し、積極的な登録出願と権利行使を進める必要がないか、再検討を要する。

訴訟対応 極めて重要

【侵害訴訟・賠償金額の増加】

特許等の侵害訴訟が増加しており、中国企業が外資系企業に対して提訴する事例や、中国企業同士の侵害訴訟も増えている。その中で、賠償金額も高額化しており、例えば、16年に北京の知的財産権法院で審理された特許・実用新案・意匠の侵害訴訟の平均賠償額は141万元(約2256万円)、商標権侵害訴訟の平均賠償額は165万元(約2640万円)、著作権侵害の平均賠償金額は45万元(約720万円)に上ると言われる。

最高人民法院は知的財産権侵害訴訟の損害額算出について、市場価値に基づく損害の補償を主としつつ、懲罰的賠償を従として、訴訟において損害額を認定する体系を構築し、損害賠償額の水準を向上させる旨述べている。訴訟における損害額立証の実務ノウハウも蓄積されつつあることと相まって、損害賠償額の高額化の傾向は今後も続くと見られる。

【被告側での応訴ノウハウ】

中国企業が質・量ともに力をつける中、日本企業の知財関係者の間では、中国において権利者・原告側の立場で訴訟等の権利行使をする場合だけでなく、中国企業から訴えられて被告側の立場に立たされる場合に備えるべきだとの問題意識が強まっている。

最近では中国企業がソニー系列の中国法人の携帯電話機器を特許権侵害で訴えた件で、17年3月に北京知的財産法院が、ソニー側に販売差し止めと約900万元(約1億4400万円)の損害賠償を命じた件が注目された。

中国の知的財産権保護では訴訟対応が極めて重要であり、被告側での応訴体制の整備が必要となっているが、本格的な知財訴訟の経験がある日本企業は、まだまだ少ないのが実情である。

本社と現法、連携した対応を

【著名商標の不正な商号利用】

商標権侵害などの模倣品被害も相変わらず多い。17年に工商局が行政取り締まりを行った商標権侵害・模倣事件は2万件を超えた。

そのうち、著名企業の社名・商標を第三者が自社の商号として工商局に登記するケースへの対処について述べる。多国間にまたがるスキームは以下の通りである。

まず中国の模倣品業者が日本や香港にダミー会社を設立し、模倣対象の著名企業の社名・商標を含んだ会社名を商号登記する。

次に、そのダミー会社の子会社などの形で中国国内に会社を設立し、同様の会社名で工商局に商号登記を行い、この中国の会社が製造する製品に、当該会社名を付して販売する。実態は商標権侵害行為であるが、一見すると外国企業からライセンスを受けた会社名の表示であり、工商局は取り締まりを躊躇(ちゅうちょ)しがちで、民事訴訟により対処せざるを得ない。

この場合、中国で相手方企業に不正競争防止法に基づく商号の抹消・変更等を求めるのと並行して、日本や香港にあるダミー会社に対しても、当該地域で訴訟を通じて商号の抹消を求めていく必要がある。外国ダミー会社の商号登記を抹消させれば、中国の訴訟において、相手方からの合法的な商号使用の主張を崩す有力な証拠となる。複数の国・地域にまたがる訴訟を、戦略的に連携させつつ進めることがポイントとなる。

日本企業と中国企業の相違点の傾向についての私見を表2に示す。

中国の実情を踏まえた、より高度な知財戦略と実務ノウハウがますます必要とされており、企業側も本社―現地が連携した対応が急務といえよう。

【略歴】のむら・たかし 弁護士、西村あさひ法律事務所 上海事務所代表。専門は中国関連の投資、M&A(合併・買収)、再編・撤退、知的財産、訴訟・紛争、独占禁止法など。中国に長く駐在し、多国籍クロスボーダー型案件を多数手がける。

【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全9回連載予定です。ご期待ください。

(2018/4/25 05:00)

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