[ オピニオン ]
(2018/4/26 05:00)
日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は、6月末にも目的地の小惑星「リュウグウ」に到着する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今後、短い間隔で記者会見を開いて状況を報告する方針だ。また一般のファン向けには、カウントダウンを表示する特設ウェブサイト(http://www.hayabusa2.jaxa.jp)や、こぼれ話を拾ったマンガ『こちら「はやぶさ2」運用室漫画版』連載などで周知を図る。
宇宙開発は多くの華やかなニュースに彩られるが、それでも宇宙機レベルで一般国民の大半が認知しているのは、気象衛星「ひまわり」シリーズと「はやぶさ」シリーズぐらいだろう。JAXAにとって「はやぶさ2」は小さなアイドルであり、広報活動の中でも重要な地位を占めている。ただ“2代目”探査機には、それなりの苦労もあるに違いない。
初代「はやぶさ」は、日本の宇宙開発にとって未踏の領域への挑戦だった。目的の小惑星にたどり着ければ快挙、タッチダウンに成功すれば快挙、地球に帰還できれば快挙、帰還カプセルから標本が発見されれば快挙-というわけで、結果的に100点満点の成果をいくつも重ねる偉業となった。
その過程でいくつもの不具合を起こし、かろうじて乗り切ったことを「奇跡」と称したメディアも多かった。しかし地道な努力の積み上げを、“神のみわざ”である奇跡と表現するのは運用チームに失礼ではないかと思う。「はやぶさ」の計画では、地球周回軌道上から帰還カプセルを放出した後に残りの燃料で新たなミッションに挑む隠れた目標もあったそうだが、そこまでは届かなかった。
2014年12月に打ち上げられた2代目の「はやぶさ2」は、初代「はやぶさ」の不具合を改良して今回のプロジェクトに挑戦している。ロケットの打ち上げ能力ギリギリで余裕がなかった初代に比べれば、2代目は予備の装備をいくつか持つなど恵まれている。小惑星「リュウグウ」近くの滞在時間も1年超の予定で、初代よりずっと長い。その分、本来の任務である小惑星からの地質標本の持ち帰りという成果を確実に実現できるかどうかが問われるわけだ。
運用チームにとってはプレッシャーだろうが、重圧に負けないでもらいたい。初代が失敗した小惑星への超小型探査車の降着や、初めてのミッションである小惑星の表面爆破、さらには地球帰還後の新ミッションなと、初代を超える未踏への挑戦を見守りたい。
実は広報活動にも、ちょっとだけ期待している。初代は小惑星タッチダウンの時も地球再突入の時も、ウェブ上の文字データしかリアルタイム情報がなかった。1960年代にアポロ計画でテレビの生中継をした米国のすごさを感じる。深宇宙での無人機の活躍を伝えることは難しいだろうが、地上で見守るファンにも2代目らしいアピールをしてもらいたいと思う。
「はやぶさ2」が目的地に着くのは七夕の少し前。夏空を見上げる楽しみが増えそうだ。(加藤正史)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/4/26 05:00)