(2018/5/14 12:30)
IoTの要素技術
IoTは機能ごとに大別すると、「センサ(実世界の情報取得機能)」「ネットワーク(取得データの集約機能)」「コンピュータ(集積データの分類・分析機能)」「アクチュエータ(実世界の制御機能)」の4つの基本要素で構成される(図3)。
ここからは、「センサ」「ネットワーク」「クラウドコンピュータ」「アクチュエータ」「エッジサーバー」の順に機能・技術進化の状況を取りまとめる。センサから収集されたデータは、ネットワーク経由にて、コンピュータ(クラウド)に集積される。積み上げられた情報は、各種分析ツールを使い、その内容が精査される。その後サイバー内で最適解を導き、実世界への制御情報としてフィードバックされる。
1、センサ
近年IoTが脚光を浴び、モノづくり企業での生産性向上に貢献できるようになった最大の理由は、センサ自身の処理性能(精度)向上と、スマートフォンに代表される莫大な数の端末への実装により、劇的なコストダウンが実現されたことであると述べた。また機器への接続時において、従来では考えられなかったほどに小さく・薄く・軽量化が図られたことも、その普及に多大な貢献をしている(表1)。また、センサの消費電力は大幅に低減されている。IoT として活用されるデバイスそのものの必要電源量はもとより、データ収集のためのセンサがローパワー環境で長期にわたり駆動し続けることも、IoT システムの長期にわたる安定稼働を支えている。
2、ネットワーク
インターネットは、双方向の通信を実現する汎用ネットワークである。一方、IoT実現のために求められる通信機能は、そのシステムごとに異なり、データ送受信の頻度やデータ量または必要なレスポンスが多岐に及ぶ。
たとえば、機械の制御や車両の自動走行に必要な情報は、フィードバックされるべきデータのリアルタイム性が非常に高い(遅延許容度が低い)。これに対し、インフラ維持管理やスマートハウスに必要な情報は、遅延許容度が高い。このようにリアルタイム性が大きく異なるデータを、長い伝達距離と大容量データに対応した従来型のインターネット接続形態でカバーすることは、コスト負担の側面からも合理的ではない。言い換えれば、単一の通信方式では個別の要件を満たすことが難しいということになる。
そこで、IoTやMtoM向けとしてLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる新しい技法が注目されている(図4)。LPWAは特定の技術やサービスを指すものではなく、「低消費電力・広範囲」を特徴とする無線通信技術の総称である。
無線通信技術については伝送速度の高速化と大容量化が注目されがちであるが、IoTやM to M といった利用場面においては、速度やキャパシティもさることながら、長時間稼働できるような低消費電力性や実装および運用コストの低さも重要視される。このような要件を満たすために開発された通信技術が各種のLPWA である。
LPWA の主要な方式のうち、「LoRaWAN」と呼ばれるものは、周波数帯域として免許が不要な920MHz帯を利用しており、無線LAN(Wi-Fi)のように、通信モジュールやゲートウェイ装置などを購入して企業が自前でIoTネットワークを構築できる。10年以上のバッテリー持続、数km 以上の通信距離、多量のデバイス接続、1個当たり数百円程度の安価な通信モジュールなどの特徴を有する 1)。
また、「Wi-SUN(Wireless Smart Utility: ワイサン)」は、1km 弱程度の距離で相互通信を行う日本発の省電力無線通信規格である。各家庭の電力計(スマートメーター)やHEMS(Home Energy Management System)への適用が進んでいる。
LPWAに準拠した無線通信系規格は、データ通信に伴う遅延許容度が高く、固定系IoTのネットワーク要件に適合している。これまでのWi-FiやBLE(Bluetooth Low Energy)などではカバーしにくかった領域にも無線通信を導入できるようになり、遅延許容度の高いIoT への導入が期待される。
一方、ネットワークとの情報のやり取りにおいて遅延許容度の低い、生産工場における機器の制御や車の自動走行などでは、現状のLTE と呼ばれる回線と比べても、桁違いの高速通信機能が求められる。
また、通信事業各社のアナウンスによれば、5Gと呼ばれる次期超高速通信システムは、LTE システムと比較して100 倍の伝送速度、1,000倍の大容量化といった飛躍的な性能向上を目標としている。多様なIoT サービスの通信ニーズに対応するために、さまざまな遅延許容度への対応と、より高速大容量の無線通信開発が進んでいる。
3. クラウド・コンピューティング
また、データの収集と分析および最適解の配信を行うクラウドコンピューティングの利用環境として、3 種類の形態がある。
① SaaS(Software as a Service):ソフトウェアを提供するクラウドサービス
② PaaS(Platform as a Service):開発環境を提供するクラウドサービス
③ IaaS(Infrastructure as a Service):サーバー(インフラ)を提供するクラウドサービス
などの充実が目覚ましく、顧客はコンピューター機器を保有せずに、自社の状況に合わせた利用環境を選択できるようになった。
4.アクチュエータ
アクチュエータは、コンピュータから出力された制御信号を元に、対象に物理的な動きを与え作動環境を改善する。センサにて収集されたデータが解析され、情報発信源であるモノの改善・価値向上を目的として状態の変化を与える。すべてが動作の変化を伴うものではないが、この指示情報が、モノまたはモノが稼働している現場にフィードバックされて、初めてIoT の目的が達成される。現場作業などの最適化を目指したIoT では、アクチュエータによる自動制御(モノの最適化)によって役割が完遂される。
5. エッジサーバー
データの集積に関しては、すべてのデータをコンピュータ(またはクラウド)に収集するのではなく、情報の発生現場(モノの近く)で即時の分析処理を行う方が効率的な場合がある。発生したデータの一部またはすべてを、モノや端末に近いサーバーで情報の判断を行う。エッジコンピューティングと呼ばれ、クラウドへのデータ集中を回避する。外部ネットワークを経由せず、地域性の高いM to Mや、ビッグデータの一次処理が必要な稼働現場近くにエッジサーバーを設置して、クラウドに比べ、はるかに速い応答速度を実現する。
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IoT進化の現状について、大規模企業でなくてもその導入効果が高いことを、技術的な側面と実業務における効能が期待できる。IoTが進化して普及が今後とも続く中で、自社にIoTを取り入れる必要性は増大している。企業においての目的は、」IoTとは身近な課題を解決する道具として理解し、実用化された事例から、何がどのように変化したかの知見を習得して、自社の課題解決の足掛かりを見出すことが重要である。
参考文献
1)KDDI ホームページ
筆 者:千葉工業大学 森 雅俊(もり まさとし)
大学院 マネジメント工学専攻 社会システム科学部 金融・経営リスク科学科 教授
所在地:〒275-0016 千葉県習志野市津田沼2-17-1
E-mail:masatoshi.mori@it-chiba.ac.jp
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