[ 政治・経済 ]
(2018/5/14 21:00)
【エルサレム=時事】米国は14日、イスラエルの建国70年に合わせ、イスラエルの「首都」と認定したエルサレムに大使館を移転した。恒久的な大使館建設には時間がかかるため、今回は「象徴的な移転」とされる。しかし、東エルサレムを首都とする国家樹立を目指しているパレスチナは猛反発、和平交渉の再開は一層不透明となった。
トランプ米大統領は昨年12月、「イスラエルの首都はエルサレムと認める」と宣言し、米大使館をエルサレムへ移転する方針を発表した。当初は来年中を予定していた移転を大幅に前倒しし、エルサレムのアルノナ地区にある米領事施設を改築して暫定的に「大使館」にすることを決定。フリードマン大使をはじめ職員約50人がエルサレムで勤務を開始し、徐々に機能を拡充する。
14日の記念式典の開催に当たり、厳重な警備態勢が敷かれた。米国からはトランプ氏の長女イバンカ補佐官と夫のクシュナー大統領上級顧問のほか、サリバン国務副長官、ムニューシン財務長官ら、イスラエルからはネタニヤフ首相をはじめ政府高官らが出席。首相は13日、米代表団を歓迎するレセプションで「トランプ大統領は歴史をつくっている」と述べ、改めて謝意を表明した。
一方、パレスチナは「この決定を撤回しない限り米国は和平プロセスのパートナーではない」(アッバス自治政府議長)と批判。パレスチナの和平交渉担当者アリカット氏は「国際法違反だけでなく、公正で恒久的な和平実現を妨げる」と訴え、外交団などに式典ボイコットを呼び掛けた。
パレスチナ人による抗議デモの激化も懸念されている。パレスチナでは14日を「怒りの日」に設定し、全土で抗議デモを実施。15日は、パレスチナ人にとって、イスラエル国家誕生により70万人以上が難民となった「ナクバ(大惨事)」を思い起こす日で、イスラエルとパレスチナの大規模衝突に発展する可能性もある。
ネタニヤフ首相は、エルサレムに大使館を移転する最初の約10カ国に対し「優遇措置」を適用すると呼び掛けており、米国に追随する国々も現れている。グアテマラは16日に移転の記念式典を行う予定で、パラグアイも今月中に移転する計画を発表。そのほか、ホンジュラスやルーマニアも移転を検討している。
対米テロ呼び掛け アルカイダ指導者
【ワシントンAFP=時事】国際テロ組織アルカイダ指導者のザワヒリ容疑者は13日、米国による在イスラエル大使館のエルサレム移転に合わせて声明を出し、対米テロを呼び掛けた。トランプ大統領について「十字軍が本性を現した」と非難した。
米テロ組織監視団体SITEによると、声明は「テルアビブもイスラム教徒の土地だ」と題された5分間の動画にまとめられている。ザワヒリ容疑者は「パレスチナの売国奴たち」と呼んでパレスチナ自治政府も非難。パレスチナ人に武器を手に取るよう促し「ジハード(聖戦)を通じた抵抗だけが有効だ」と主張した。
流血のガザ、怒りの抗議 パレスチナ人「永遠に戦う」
【エルサレム=時事】パレスチナは14日、在イスラエル米大使館のエルサレム移転に強く反発する「怒りの日」と定められ、全土で抗議デモが吹き荒れた。イスラエル軍は銃撃で対抗し、自治区ガザでは30人以上が死亡。3月末から続くデモで1日の犠牲者としては最悪の事態になった。イスラエル軍が放つ催涙ガスが容赦なく降り注ぐ中、負傷して流血したパレスチナ人が担架に乗せられて次々と運ばれた。
イスラエル側は大規模な抗議行動が暴徒化する事態に備え警戒を強化。治安部隊をほぼ倍増させて対応した。
自治政府の議長府があるヨルダン川西岸ラマラでも14日、中心部のアラファト広場にパレスチナ人住民が集結した。抗議に参加した自治政府職員リヤド・ムカハルさん(52)は「われわれの土地を取り戻すため、戦いは永遠に続く」と語気を強めた。女性職員のサファ・ドウェイクさん(39)は「私も子供たちもイスラエル人と平和に共存したい。国際社会は米国とイスラエルの違法行為を止め、パレスチナを強く支持してほしい」と世界に向かって訴えた。
イスラエル軍はこれまでに戦闘機を使った空爆で、ガザを実効支配しているイスラム原理主義組織ハマスが掘削したとされるイスラエル領内への複数の地下トンネルを破壊した。イスラエル軍は「ハマスは武装テロリストを使ってガザの境界突破を企てている。イスラエル領内で虐殺を計画しているが、それは許さない」と強調。国際社会から批判を浴びているデモ隊への実弾使用もいとわない強硬姿勢を貫いている。
(2018/5/14 21:00)