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(2018/5/18 05:00)
生き残るためのFB加工技術の深化
山本製作所 開発技術部 部長 木村峰
ファインブランキング(FB)加工は1923年、スイス人のフリッツ・シーツ氏によるドイツ特許に始まり、以後30年を経過して実用化されたものである。FB加工は被加工材を高精度で打ち抜くことで部品を一気に仕上げることができる。このため通常のプレス加工部品に必要な、輪郭・孔部分への切削加工やフライス加工などの二次加工が不要になることから普及してきたプレス工法である。現在は板鍛造技術を取り入れた高付加価値の製品が多くを占めている。
FBの加工原理
FB加工とは、打ち抜きせん断部に高い静水圧を与えて被加工材の持つ延性を増幅させることによって、打ち抜き時に発生する割れ(破断)を抑制し、平滑な断面を得るとともに材料の塑性流動によるダレを小さく抑える効果がある。
このような加工を成立させるためには専用のプレス機、またはFBプレス機相当の装置を付与した設備が必要となる。具体的には打ち抜きにかかるメーン圧力のほかに、被加工材の拘束と楔(くさび)状の環状突起を押し込むための板押さえ圧力、製品の曲がりを抑え込んで圧力が逃げることを防ぐカウンター圧力の3軸の圧力を制御することにより、せん断部に高い圧縮応力を与えて静水圧を発生させることが可能となる。またパンチとダイのクリアランス設定を板厚の1%未満にすることで、せん断部を圧縮状態に保ち、打ち抜き面の割れを抑制する効果が得られる。
基本的に平滑なせん断面を得ることが代名詞のようなFB加工だが、カウンター圧力の「製品の曲がりを抑え込む」効果によって製品の平面度確保にも有効とされ、さらにこれらの圧力を利用して板鍛造の技術を取り入れ、より付加価値の高い製品加工に適した工法である。
自動車業界変革の影響
FBプレス業界で生産される製品は自動車関連の部品が多くを占めている。自動車メーカー各社は燃費など環境性能を向上させるため、排ガス再循環装置(EGR)クーラーなどが普及しステンレス製の配管フランジや、軽量化のための高張力鋼の割合が増加し、被加工材のプレス加工における難易度が上がっている。また現在の自動車業界は100年に一度の変革期に入ったと言われ、多くの自動車メーカーがエンジンだけの自動車の生産中止を表明したことで自動車のEV(電気自動車)シフトが急速に進んできているのが現状である。
FBで加工される製品の特徴として比較的製品板厚の厚い部品が多く、前述の給排気系の配管フランジや自動変速機用のクラッチ板などがあるが、これらの製品は自動車がEV化すると構成される部品が変わり不要になってしまう。自動車がEV化することで内燃機関関連の部品を中心に約1万点の部品がなくなると言われている。しかし当面は課題が多く、自動車に限らず内燃機関が完全になくなるとは考えづらい。ただし需要の減少は避けられない状況であることはFBプレス業界にとって深刻な問題である。
生き残るための技術
FBメーカーは減少する需要に対するシェアを確保し業界で生き残るため、より魅力的な製品をつくることが一つ目の課題となる。要求精度の高度化はもとより、自動車の軽量化のために被加工材の高張力化が進み、加工難易度も急速に上がっている。このように高度化する要求に即座に応えられる技術力が求められる。
二つ目の課題は新たなニーズへの対応や提案力と考える。FB加工初の製品はタービンブレードの加工であり、日本ではミシンやタイプライターなどの小物部品から広がった加工方法である。自動車業界以外へ目を向けることも重要だが、日本の基幹産業である自動車産業のEV化の波に乗ることも挑戦し続けたい。
現在、EV普及のカギとなる課題は航続距離である。この航続距離改善対策の一つが車両の軽量化である。今後EV化が進む中で、アルミニウムやマグネシウムなどの非鉄金属や、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの樹脂製の部品が増えると考えられる。また内燃機関の化石燃料に対しEVのエネルギーは電力に置き換わることから、今までと違った素材での製品の需要が生まれてくる可能性が高いと考えられる。
FBプレス機は打ち抜きのスライド運動に加え、板押さえ圧力とカウンター圧力の3軸圧力制御が可能なプレス機であることは既に説明した通りだ。これらの圧力を利用することで被加工材の拘束状態や背圧制御が可能なため、先に述べたさまざまな素材での加工条件の変化にも柔軟に対応できる設備であると考える。
FB機械メーカーではさらにスライド位置を制御するサーボ駆動のFBプレス機や、可動軸を増やした多軸機など設備の充実も図っており、今後もFB加工技術の深化に期待していただきたい。
(2018/5/18 05:00)