[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/日本経済 足踏みのこの先は?

(2018/6/7 05:00)

高水準の企業収益を背景に 個人消費、輸出は持ち直しの公算

 緩やかな成長を続けてきた日本経済が“足踏み”に転じた。わが国の景気はこのまま失速してしまうのか、それとも腰折れせずに再び回復に向かうのか。個人消費や輸出などの動きを左右する環境を分析し、今後の日本経済を展望してみよう。

 4月に発表された3月調査の日銀短観によると、代表的な指標とされる大企業製造業の業況判断DIが2年ぶりに悪化した。原油価格の高騰に加えて、年初から上昇を続けた日経平均株価が2月以降、米国の株安に連動して下落に転じたことが企業マインドを悪化させた。また米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの姿勢を示しているにもかかわらず、ドル安が進行するという矛盾した動きを見せるなど、世界的に金融市場が不安定化したことも影響した。さらに急激な円高・株安が進行した時期が、賃上げ交渉の時期と重なったことが企業心理を冷え込ませたようだ。

 5月に発表された2018年1-3月期の実質国内総生産(GDP)1次速報値は、年率0・6%減で、9四半期ぶりのマイナス成長を記録した。1、2月の大雪により野菜価格が高騰したほか、外出を控える動きが増えて、個人消費の下押し要因となった。また、中国やアジア向けの電子部品の輸出が減少したこともGDPの減少につながった。

 企業心理と経済統計がそろって悪化したため、景気腰折れを懸念する声が高まっている。先行きの景況感がさらに悪化するとみる向きもある。金融市場の先行き不透明感が根強いため、円高・株安に対する先行き警戒感が企業マインドを冷え込ませている。

 トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウム製品の輸入に関税を適用する措置を発動したことで、世界経済への悪影響が懸念され、金融市場をさらに不安定化している。このほか、“森友問題”や財務省の決裁書類改ざん問題などで安倍晋三政権の基盤が揺らいでいることも微妙に災いしているのではないだろうか。

 実質賃金の低迷が個人消費の回復力を弱いものにしているため、この先も急激な消費拡大は期待しにくい。加えて輸出についても懸念材料がある。米国の金利上昇に伴い、新興国に流れ込んでいた“緩和マネー”が還流し始めており、経済基盤の脆弱(ぜいじゃく)な新興国では大幅な通貨安と景気後退の危機に見舞われている。こうした新興国の動きは世界経済の阻害要因となることから、わが国の輸出にも大きな影響が予想される。

 ただ、個人消費は、1-3月期の減少の主因となった天候要因は解消している上、今春闘で3%近い賃上げが行われるなど雇用所得環境の改善が続いているため、持ち直すものとみられる。また、新興国への影響力が大きい米国の金利動向が気がかりなほか、イラン核合意からの離脱やエルサレムへの大使館移転といった“トランプ・リスク”に伴う地政学的リスクから原油価格高騰の懸念はぬぐえない。

 しかし、金融市場は安定に向かっているほか、米国の大型減税が本格化するに伴い、世界経済へのプラスの効果が大きくなるため、輸出についても底堅く推移する可能性が大きい。このほか、18年3月期決算発表で最高益をはじめ高水準の企業業績が次々に明らかになった。設備投資の増加などを通じて今後の日本経済の押し上げ要因になるだろう。

 このように今後の個人消費、輸出、設備投資などの動向を展望する限り、日本経済の足踏みは一時的なもので、年央に向けて立ち直る可能性が大きいとみてよさそうだ。(川崎一)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/6/7 05:00)

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