[ オピニオン ]
(2018/6/21 05:00)
「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」と呼ばれる事務作業を効率化する自動化ソリューションの導入機運が高まっている。生産性の向上が期待されるが、コスト削減などの目先の実利にとどまらず、RPAの導入を起点に、人間とロボットとの関係性を「見える化」し、デジタル化による働き方改革の未来を展望したい。
RPAは「デジタルレイバー(仮想労働者)」とも呼ばれる。その実体は、パソコン上のルーティンワークなどを代行させるソフトウエアに他ならないが、システム上では人間のように機能することから、デジタルレイバーなどと擬人化して語られることが多い。
「RPAの導入で日本は後れをとった」と言われる。とはいえ、RPAは突然、登場したわけではない。RPA専業ベンダーとして有名な英ブループリズムが日本に上陸したのは2012年頃。大手の情報サービス会社がシステム運用の効率化で活用していたが、当時はRPAといったキーワードはなく、業務自動化のツールでしかなかった。
RPAが日本でもてはやされるようになったのはここ1、2年。人工知能(AI)ブームや、IT業界が得意とするバズワード(流行語)的な要素が相まって、RPAに対する認知度が瞬く間に広まり、現在に至っている。
RPAが得意とするのは、単調な繰り返しや人手が必要な手間のかかる定型業務。例えば光学式文字読み取り装置(OCR)-。かつては認識率が十分ではなく、機械的に読み取った後に、再度人手でチェックする必要があった。
人並み以下では効率化にならないが、最新のOCRは非定型文や手書きの文字なども高精度に認識し、人並みもしくは、それ以上の水準に達している。
OCRに限らず、RPAの技術革新はめざましく、データの入力や照合、メールの送受信から始まり、データの集計・分析や情報検索などへと適用領域が広がっている。さらに収集・蓄積したデータを分析して、新たな価値や知見を見いだそうという取り組みも進んでいる。
メガバンクをはじめ金融機関はこぞってAIやRPAの導入に着手しているのは周知の通り。その見返りとして人員削減がクローズアップされ、「RPAは人間の仕事を奪うもの」と、揶揄(やゆ)されることも増えてきた。
ただ、仕事が奪われるという観点でRPAをとらえると、本質が見えてこない。デジタルレイバーへの関心が高まる背景には、労働人口の減少に伴う人手不足という日本が抱える社会課題があり、さらに働き方改革への取り組みもRPA普及の推進力となっている。
RPAの利点は既存の業務手順を変えずに手軽に導入できること。使う領域さえ、間違えなければ相応の効果が出る。単調な繰り返しや人手が必要な手間のかかる作業を効率化したいならば、RPAを試してみる価値はある。
もちろん、RPAは魔法の杖(つえ)ではない。「とりあえず導入したが、実証実験から先に進まない」といった企業も少なくない。部門ごとにRPAをやみくもに導入した結果、管理できずに余計なデータを検索してしまう「野良ロボット」が横行するなどの事態にもなりかねない。
ITベンダーにRPAの成功のこつを聞くと、「既存のIT部門でRPAを管轄しない方がよい」という。IT部門は既存システムの運用で手いっぱいのことが多く、新しいことに手が回らない。「スピード感を重視するには、業務改革をリードする経営企画部門などの傘下にRPAの推進部隊を置き、IT部門を支援する体制がよい」との指摘もある。
RPAはさらに進化を遂げる中で、工場内で動く自走ロボットやロボットアームのように、何かしらの実体を持つかもしれない。それをRPAと呼ぶかどうかは別としても、その先には「人とマシン(機械)が共存する社会」が垣間見える。我々はそんな入り口に立っている。RPA導入により、人間とマシンとの関係性がどう変化していくかに注目したい。(斉藤実)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/6/21 05:00)