[ 金融・商況 ]
(2018/7/8 12:00)
2017年11月から9回にわたり審議してきた金融審議会(岩原紳作座長=早稲田大学大学院法務研究科教授)の「金融制度スタディ・グループ」は6月18日、「中間整理」を公表した。
進む金融サービスの分解と統合
フィンテックの進展により、金融サービスを個別の機能に分解して提供する「アンバンドリング」や、複数の金融・非金融のサービスを組み合わせて提供する「リバンドリング」の動きが広がっている。
例えば、フィンテックのベンチャー企業がスマートフォンを使ったリテール分野の決済に特化してサービスを提供する事例が数多く登場している。利用者のニーズに対応して、他のサービスを組み合わせて提供するケースも少なくない。
また、事業会社をトップとする異業種グループがグループ内に金融機関を持ち、自社事業との相乗効果を発揮する例などが見られる。
こうした動きは従来、金融の中核とされてきた銀行や預金の相対的な重要性を低下させていく可能性がある。また、金融サービスと非金融サービスとの一体化が進み、両者の境界が一層、曖昧になっていくと考えられる。
金融システムのネットワーク構造は①金融機関ハブ型:利用者が金融機関を介してサービスにアクセスする仕組みから、②インターフェース企業中心型:インターフェース企業が間に入って金融機関がその背後で商品・サービスを提供する仕組み ③取引所型:利用者が直接取引所に参加する仕組み ④分散型:個人同士が直接に取引を行う仕組み―などに移行していく可能性がある。
「中間整理」では以上のようなさまざまな変化により、金融システム、金融サービス、そして金融機関のあり方に抜本的な変革がもたらされる可能性があるとしている。
同一機能・同一リスクには同一のルールを適用
現在の金融制度は業態ごとに銀行法や資金決済法などの法令(業法)が存在し、各プレーヤーのサービスが同一機能とリスクを有していても、プレーヤーの属する業態ごとに規制の内容が異なることがある。
これに対して審議会は「同一機能・同一リスクには同一のルールを適用する」という原則に立っている。業態別になっている金融規則の現行体系をより機能別・横断的なものにすることを目指している。
このため、金融機能を決済、資金供与、資産運用、リスク移転―の四つに分類している。
金融と非金融の垣根が崩れる
今後、金融と非金融サービスの垣根が崩れていく可能性がある。電子商取引(EC)企業が金融サービスを併せて提供する例や、銀行がIT企業など外部と連携・協働してサービスの質を高める動き、さらに銀行が実質的に情報サービス会社に転換し、伝統的な銀行業務は子会社で行うというドラスチックな経営方針を採用することも「全くあり得ないことではない」が、現行制度ではこうした動きは想定されていないという。
金融と非金融の垣根が崩れる中、現在、厳しく制限されている銀行の業務範囲をどこまで広げるべきか、いわゆる「シャドー・バンキング」の拡大にどう対応すべきかも論点となる。
商品・サービス提供プロセスに着目したルール整備
金融機能の分類については、上記の決済、資金供与、資産運用、リスク移転などサービスの果たす役割に着目する方法以外に、「組成」「販売」「助言」など、金融商品、サービスが組成されてから顧客に利用されるまでの各プロセスに着目する方法もあり得る。
その際、金融機関と利用者の間に介在して金融取引の代理・媒介をする者に対する規制についても、金融取引の機能ごとに応じた対応を行うことが必要だとする。
他方、商品・サービスの提供プロセスの一部に特化して業態・機能をまたがる商品・サービスを横断的に提供するビジネスも登場してくる。このためのルールの共通化は重要な課題だ。
また、インターネットを活用したプラットフォームの提供者はフィンテックの流れの中で重要性を増していくため、プラットフォーム提供者への規制が重要となる。
さらに今後、各論の検討を進めるためには①国際的な整合性②法令と自主規制の組み合わせ③民事法上の扱い④金融に関する基本概念・ルールの横断化―などの課題についても検討を深めていくことが必要だと、「中間整理」は述べている。(隔週日曜日に掲載)
著者プロフィール
丸山隆平(まるやま・りゅうへい)
1972~1989年 日刊工業新聞記者としてICT産業、流通業界など取材。1990~2012年、IRコンサルタントとして100社以上の財務広報をサポート。2013年~フリーの経済ジャーナリストとして、経済誌、Webメディアで活動。現在、金融タイムス記者、プレジデントオンライン、ZUUonlineなどに寄稿。著書に『AI産業最前線』(共著、ダイヤモンド社)、『まるわかりフィンテックの教科書』(プレジデント社)などがある。1948年、長野県生まれ。
(2018/7/8 12:00)