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(2018/9/23 07:00)
彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。
「本当にそんなことが起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。
それでは遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。
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開発当初は画期的な機械と判断されたモノが、年月の経過とともになぜ市場投入したのだろうと自問自答されることがある。今回のエピソードは「機能限定・廉価で販売台数を稼ぐ」として新商品(フライス盤)を市場投入した販売促進活動の巻。
新商品本体(重量約4t)を大形トラック(10t)に乗せ、全国の機械販売代理店・顧客を巡回することになった。製作工場で出陣式が行われ、初めに巡訪したのは静岡県東部地区。テリトリ責任者の佐々木営業所長と2人で初のイベントをこなす羽目になった。初物を処理するのは三十郎の得意とするところでもあり、プラス思考で走りながら考えることに。
静岡駅前でトラックと待合わせし販売代理店の駐車場に向かう。戸惑い・恥ずかしさも感じながら来訪者の受け入れ準備を始める。荷台に乗車してもらう安全梯子の取り付け、社名と商品名を記載した派手な幟(黄色バックに黒文字のタイガース仕様)でトラックの周囲を囲み、機械稼働用の発電機・圧縮空気機を立ち上げる。
初日を無事終え、その夜は小さな憩いの時間を過ごした。翌日以降トラブル対応に奔走する羽目に陥るとは知らず。
翌朝「七人の侍」のラストシーンのような大雨の中を車中移動する。国道一号線から横道に入るルートに差しかかり、運ちゃんはハンドル操作をするが一度で切れない。三十郎は周囲の状況に唖然としながらも事態をすぐに飲み込み、助手席から飛び出し勘兵衛のごとく雨中を走り、天下の国道一号線を遮断した。瞬く間に車列が何百mにもおよぶ。平身低頭目配せ深謝しトラックを横道に進入させた。
こんな時に限ってトラブルが続出する。工場サイドが手配していたレンタル品類が三十郎に反抗しはじめる。「2001年宇宙の旅」の中で、木星に向かう途中コンピュータが反乱したように。
① 発電機トラブル:フル給油で2日間稼働できるとしていたが、燃費が悪いのか2日目早々にガス欠(ガソリンスタンドからドラム缶2本入手)。
② 圧縮空気機トラブル:元栓ホースカップリング破損。
③ 通行不可:会場である代理店駐車場へ通じる道路が狭隘(代替空き地で実演)。
④ 実演中に雨対策:現在のキャラバン仕様車なら天井付きであろうが、当時は天井などなく養生用カバーで機械上部を覆い一時非難。来場者には大きめの傘を購入し対応。
こんな営業形態の中で思い出したのが寅さんの啖呵売。門司港名物バナナの叩き売りもよいが、寅さんの名台詞をつくり替え呟いていた。「男はつらいよシリ-ズ・山田洋次監督」。
“さぁて、いいかねお客さん!一流専業メーカーの舶来のスーツを着用した営業マンから下さい頂戴でいただきますと1千が2千、3千が4千万円する品物だが、今日はこれだけ下さいとは言わない!
ならんだ数字がまず一つ、モノの始まりが産業革命のウィルキンソンの中ぐり盤なら、国内の産業機械の原点は三菱長崎造船所。国の始まりが大和の国、島の始まりが淡路島、泥棒の始まりは石川五右衛門……。どうです、見ていただきましょう。説明したとおりの機能と使いやすさでこれだけの価格。たったの1千万円!私が知っているフライス盤メーカーも泣きの涙で手を上げる価格だ。しかも輸送・荷降ろし・横引き・操作指導も含めての価格。エーイ、持っていけ!”
口八丁・手八丁はイベント司会などでお手の物だが、このキャラバンだけは冷汗ものだった。こんなことなら自動車営業マンの歩合制給料に転職しようかと思ったほど。幸い会社を辞めることもなく、逆に車や銀行マン経験者が途中入社して三十郎を助けてくれている。
映画「トラック野郎(1975年・鈴木則文監督)」一番星が愛称のトラック運転手・星桃次郎に扮した菅原文太さん主演シリーズ作品。時間的に困難なトラック輸送を依頼されながらも、山中を疾駆する姿がミニチュアとパノラマ模型で撮影されていた。シリーズのお約束は寅さんシリーズと同じ淡い失恋であった。
(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)
(2018/9/23 07:00)