[ オピニオン ]
(2018/10/4 05:00)
世間をにぎわすゾゾタウンやメルカリなどのニュースを見るにつけ、日本でもようやくベンチャー、スタートアップ(新しい技術やビジネスモデルをもとに短期間に急速な成長を遂げる新興企業)が生まれ、それを受け入れる文化が根付いてきたと感じる今日このごろ。とはいえ、世界で戦えるスタートアップはまだまだ少ないのが実情だ。
そうしたことから、経済産業省ではスタートアップの海外展開やユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の非上場企業)創出を含め、有力スタートアップの集中支援プログラム「J-Startup(ジェイ・スタートアップ)」を開始した。その第1弾の支援対象に92社を選定している。
では、なぜ世界に通じるスタートアップが必要なのか。米国や中国を見回してみればいい。IT分野をはじめ新興企業が次々と登場し、グローバル展開を果たしながら、例えば中国・ファーウェイ(華為技術)のように既存の大企業の存在を脅かすまでに急成長している。
それに対し、日本は大企業信仰が根強い。大企業発のイノベーションもあるにはあるが、それまでの成功体験があだとなり、現状をひっくり返すような製品やサービスは生み出しにくい。優秀だが常識的な人材を抱えた大企業型の組織形態では経営判断に時間がかかる上、リスクが高く、うまくいくかどうか分からない案件に挑戦するモチベーションがそもそも保ちにくい環境にある。
「日本は新しい産業を作れる人材も、トップレベルの研究者も多くはない。世界競争の中でどうやって日本の未来を作っていくかが課題だ」。9月11日に都内で開かれた「デロイト トーマツ イノベーションサミット」に登壇した経産省産業資金課長兼新規事業調整官の福本拓也氏は、こうした危機感がJ-Startup立ち上げにつながったことを明らかにした。
ただ、常識外れのスタートアップを生み出すには、常識外れの環境づくりも欠かせない。フリマ(フリーマーケット)アプリで人気のメルカリの小泉文明社長兼最高執行責任者(COO)は「海外ではアマゾンでも中国企業でもグロース(成長)を重視する。トップライン(売上高)を伸ばすのがすべて、という意識を日本でも広げていきたい」と力説する。
小泉社長によれば、日本国内の機関投資家から寄せられる質問は「いつになったら利益が出るのか」という目先の話が多く、将来の成長に向けた有益なディスカッションになりづらいという。日米欧で医療用ロボットスーツなどを展開するサイバーダインの山海嘉之社長も「海外の機関投資家に聞かれるのは企業のビジョンなのに対し、日本ではいつ黒字化するのかという話ばかり」と、投資家とのビジョンの共有の大切さを訴えた。
電気自動車(EV)メーカーの米テスラは、低価格セダン「モデル3」の量産にてこずった上、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)のツイッターでの不用意なつぶやきから、経営危機までささやかれる事態に見舞われた。黒字転換も視野に入ってきているようだが、業績はいまだに赤字のまま。それでも時価総額は米ビッグスリーを優に上回る。投資家は現在の利益ではなく、将来の成長性を見て、それが株価を押し上げているのだ。
「まずは利益を」と小さくまとまるスタートアップが、世界の強豪相手に戦えるわけがない。J-Startupの支援企業に限った話ではないが、世界に羽ばたき、世界を変えるスタートアップと関係者の頑張りに期待したい。(藤元正)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/10/4 05:00)