[ オピニオン ]
(2018/10/25 05:00)
公益法人制度が大きく改められ、新法が施行されたのが2008年の12月。今年は新制度10周年となる。
公益法人改革は明治時代の制度制定以来、120年ぶりの大改革だった。公益のあり方を見直し、過去に設立を許可した2万余りの社団法人、財団法人すべてを「公益」と「一般」に区分けした。特定の業界や会員企業の利益を代弁する団体は公益にはなじまないとされ、経団連や業界団体の多くは「一般社団」「一般財団」に転換した。
一方で人材育成や奨学金、美術館や博物館の運営など社会貢献を柱とする団体は改めて「公益社団」「公益財団」に認定された。その数は9000強で、旧制度の社団・財団から半分になった。新・公益法人には収益の非課税など優遇措置が認められている。公益法人の集まりである公益法人協会(東京都文京区)の雨宮孝子理事長は「世界的にみても進んだ制度」と話す。
しかし新制度10年を経て、公益法人の間から不満が吹き出している。税制優遇措置が大きい半面、報告や変更申請の手間が大変で、小規模な団体では業務に支障が出ている。また公益事業と認められる支出にも制限があり、活動の足かせになっているという批判がある。公益法人協会は第三者を交えた委員会で問題点を検証し、政府に規制の緩和を提言する計画だ。
公益法人が活動しやすい環境を整えることは大事だが、公益法人側も努力すべきことがあるのではないか。それは一般からの寄付集めである。
公益法人への寄付には税制上の優遇措置があるが、利用は低調だ。ほぼ半数の公益法人は寄付集めをしていない。寄付収入を計上している団体も、企業グループなど設立母体の社会貢献費の受け皿になっているケースが大半。不特定多数から寄付を集めているのは日本ユニセフ協会など数えるほどしかないのが実態だという。
関係者は異口同音に「日本には欧米のような寄付文化が根付かない」と嘆く。しかし貴族の「ノブレス・オブリージュ(高貴な義務)」の伝統を持ち、寄付をステータスの一種と感じる欧米型の寄付文化が、そう簡単に日本に芽生えるだろうか。中流意識の層が厚い日本では、寄付を「おこがましい」と感じる向きすらあるのだ。
知名度の高い企業系の公益法人は、もっと手軽に寄付ができる仕組みを工夫してもらいたい。例えばクレジットカードのポイントや航空会社のマイルの端数を、同じ企業グループの公益法人向けに寄付する仕組みをつくれないか。
地方税の「ふるさと納税」は寄付税制の一種だが、寄付に対して返礼品を送ることで急速に利用が拡大した。公益法人が同じことをするのは難しいだろうが、企業グループに関係の深いスポーツ選手や著名人のサイン、イベント入場券などを返礼品にしてはどうだろう。
株主総会の招集通知に「寄付募集」の文言を入れる方法はどうか。議決権行使書のチェックボックスに印をつけた株主に対し、配当から一定額を寄付として差し引いて支払う。年間に数百億円を配当する企業は少なくない。その1%を集められれば、相当な成果だ。
こんなアイデアを思いつくままに企業系の公益法人幹部に話したら「考えたこともなかった」と言われた。努力をすれば、できる可能性があると言うことだろう。制度的な障害もあるだろうが、多くの公益法人の声を集めれば、乗り越える方法も見つかるのではないか。
こうした寄付集めが可能なのは一部の著名な企業系公益法人だけかもしれない。それ以外の中小法人に限って、規制を緩和するよう要望するのが筋ではないかと思う。
公益寄付の制度をつくっても、それを利用する国民が現れるのをじっと待つのは「百年河清を待つ」結果になりかねない。産業界に関係の深い有力な公益法人が、新たな時代を切り開いてほしい。(加藤正史)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/10/25 05:00)