[ 機械 ]
(2018/11/3 10:00)
工作機械についに青色半導体レーザー(ヤマザキマザック製)が投入される。青色半導体レーザーは従来の近赤外線レーザーに比べ金属の光吸収率が高い。特に難加工材料の純銅に対しては顕著だ。光吸収率が高いため高効率・高品質加工が可能となる。ドイツ、米国でも青色半導体レーザーの高輝度化を進めているが、日本の青色半導体レーザーが勝る。これはわが国の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで推進された産学官連携研究開発の成果である。
大阪大学接合科学研究所 レーザプロセス学分野教授 塚本 雅裕
格段に高い純銅への吸収率
工作機械もディスクレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザーを搭載するようになった。従来、切断が主な用途だったが、5年前の3Dプリンターブームの後押しもあり、レーザーによるアディティブマニュファクチャリング(3Dプリンター)機能を付加した複合加工機が開発・製品化された。
3Dプリンターブーム直後の2014年、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的設計生産技術「高付加価値設計・製造を実現するレーザーコーティング技術の研究開発、2014―2018年度(SIP第1期レーザーコーティングPJ)」が始まった。レーザーコーティングは積層技術であり、3Dプリンターにつながる技術。開始2年で6台の近赤外線半導体レーザーを用いたマルチレーザービーム加工ヘッドを製品化。このヘッドを搭載した複合加工機がJIMTOF2016で動態展示された。
並行して青色半導体レーザーマルチビーム加工ヘッドの開発にも取り組んだ。純銅への吸収率は近赤外線の領域に比べて青色の領域では格段に上がる(図1)。15年ごろの青色半導体レーザーの出力は20ワット程度だったが、16年1月には20ワット青色半導体レーザー6台からのレーザー光を重畳するレーザーコーティング装置を世界で初めて開発。その結果、純銅のコーティング(積層)が容易になった。
積層だけでなく、溶接や3Dプリンター技術など、純銅に対しさまざまな加工が可能になると政府が提唱する「ソサエティー5・0」社会の実現に貢献する。ソサエティー5・0社会で自動車は自動走行車になる。動力となるモーターの高性能化は必須。そのためモーターのコイルは最適設計が必要だ。
具現化にはコイルの素材である純銅の加工がキーテクノロジーであり、純銅への吸収率が高い青色半導体レーザーが高効率・高品質加工ツールとして期待される。
NEDOプロ 1年半で製品化に成功
青色半導体レーザーによるさまざまな純銅加工の実現には高出力化・高輝度化が必要だ。そこでNEDOプロジェクト「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発(NEDOレーザーPJ)」は16年から高出力・高輝度化開発に急ピッチで取り組み、プロジェクト開始1年半で100ワット級青色半導体レーザーを製品化。18年1月から販売を開始した。青色半導体レーザー加工は純銅だけでなく他の金属でも高効率・高品質加工を実現する可能性があり、青色半導体レーザー開発競争はさらに激化すると予想される。
今回のJIMTOFで「100ワット級青色半導体レーザー」を3台取り付けた「マルチレーザービーム加工ヘッド」搭載の複合加工機(高輝度青色半導体レーザー搭載複合加工機)が世界で初めて稼働・披露される。
100ワット級青色半導体レーザーはNEDOレーザーPJの成果、マルチレーザービーム加工ヘッドはSIP第1期レーザーコーティングPJの成果。そして、短期間に複合加工機を具現化できたのは企業の懸命な努力の賜物。つまり、高輝度青色半導体レーザー搭載複合加工機は産学官が一体となり進めた二つの大型プロジェクトの連携による成果である。
NEDOレーザーPJの青色半導体レーザー開発に代表されるようにわが国は現在「レーザー加工」を重点課題としており、三つの大型プロジェクトを進めている(図2)。「NEDOレーザーPJ」(16―20年度)、文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q―LEAP)」(18―27年度)、内閣府SIP第2期「光・量子を活用したSociety5・0実現化技術」(18―22年度)、いずれのプロジェクトでもCPS(Cyber Physical System)を取り入れた新しいレーザー加工の技術開発に挑戦している。各府省が役割分担することで効率的にCPS化を進めることができる。
これらプロジェクトの有機的連携で生み出された新しいレーザー加工技術が新しいレーザー加工システムを創製し、さらには従来の産業技術を大きく変えていくような革新的加工技術を創出し、産業界の発展、ソサエティー5・0の実現に貢献することを切に期待する。
(2018/11/3 10:00)