[ 機械 ]
(2018/11/5 09:30)
工業製品の大量生産では金型を工具として用いて成形加工(プレス加工や射出成形加工など)する場合が最も多い。ではその金型をどうやって製作するのかというと除去加工を用いることが一般的である。その中でも切削加工、研削加工、放電加工が主に用いられる。これらの除去加工はトラディショナル・マシニングと呼ばれ、原理的には決して新しいものではない。これらの諸原理にコンピューターをリンクさせてコンピューター利用設計・製造・解析(CAD/CAM/CAE)を用いて生産するのが現在の金型製作である。その中でも特にマシニングセンター(MC)が多用される。
放電加工とミーリングを比較すると、放電加工では電極を切削で製作しており、これを金型の直彫りに置き換えれば、切削と放電を併用して加工していた金型加工を切削のみで製作可能になり、この工程集約によって大幅な加工時間の短縮が可能になるという考えがある。実際に、これまで放電加工で製作していた金型をミーリング加工に代替している例が見られる。
一方、焼き入れ鋼材などの高硬度を有する金型加工でも、工具材質・設計の改良、焼き嵌め(ルビば)ホルダーなどのツーリングシステムの開発、スピンドルの高速化(工作機械本体の高度化)などにより研削加工に比して切削加工可能な領域が拡大してきている。
ここでは最新の見本市(IMTS2018=2018年9月10―15日、米国シカゴ)における工作機械の情報を中心に、MCによる金型加工技術の動向や指向について私見を述べる。
芝浦工業大学デザインン工学部デザイン工学科教授 安齋正博
金型製造技術とIoT
あらゆるものとインターネットをつなげるIoTやAIの発展が製造業に大きな影響を及ぼすということでIoT対応工作機械と銘打った展示が多くみられる。大規模なデータを取り扱ってはいないものの、かなり前からデジタルデータを使ったモノづくりは金型分野では当たり前であった。
工場内でのLANによる直接数値制御(DNC)運転などはこれに近いものであろう。それが拡大されて工場同士がつながる、さらには多くの消費者とつながることによってモノづくりが変革されるとうたっている。
各工作機械やロボット、加工プロセスや加工状況などの大きなデータを共有すること、併せてこれらを分析することによってモノづくりラインの適正化を図る。それによって、大量生産から多品種少量生産まで、さほど違わないコストや時間でものを供給することができるといったものだがまだまだ先は長い。そもそも売れ筋商品を創出しなければ、生産プロセスを作ったところで意味がない。全世界的にみて、金型を用いた成形加工はまだまだ継続されるであろう。
図1にMCの各所にセンサーを取り付けて見える化を図った事例を示す。確かに高度化しているのだがハードウエア的にはほとんどこれまでとの差異は認められない。従来の工作機械に大きなスマートフォンをつけたような感じである。どこの国に行っても、同じような機械を使って大量生産できるのであれば、何も自国で製造しなくてもよくなる。
事実、そうなってきた。デジタルデータを駆使したモノづくりには、いつもそのような危険性が内在している。ソフトウエアの開発がどんどん進んでコンピューターを駆使したモノづくりが発達しても、ハードで起こる種々の不具合は変わらない。もう少し、IoTに対応したハードウエアはどうあるべきかの提案が必要であろう。
現状では、ソフトウエアが先行しているように思える。MC単独ではなく、このようなシステムを内蔵した形態で進化していくのではないか。
さて、金型製造技術はハイテク技術の集合体である。大多数の金型は一品生産品であり、形状は複雑で、表面性状や寸法精度も要求されるレベルは高い。さらに金型材料も難加工材が多く、表面処理やコーティングなどの最先端技術も要求される。その寸法は自動車用プレス金型などで使用されるメートル単位のものから光学系金型で使用される数ミリメートル単位でナノメートルオーダーの高い精度が要求される微細なものまで幅広い。さらに金型の生産は、速く安くが厳しく要求される製造が難しい高価な生産財である。これらの観点から、すべての先端機械製造技術が駆使されているのが現在の金型製造技術であるといえる。
一方、金型製作に欠かせない工作機械は、工程集約、高速・高精度化、環境負荷軽減、ネットワークやIT化の技術革新などが最近の指向であり(これがIoTと直結する)、高速・高精度加工機、多軸加工機、複合加工機、超精密加工機など、さらに進化した新しい加工機が製品化されている。前述のキーワードは依然重要であってこれからも大筋で変わることはないと考える。
高速・高精度に金型の形状加工を行うには多くの要素技術を有機的に結合してそれぞれの潜在能力を十分に活用する必要がある。金型の種類は多岐にわたり、それぞれの分野で要求される精度、表面性状、形状も当然異なる。ここではこの金型の形状加工の基礎と現状について、MCなどの工作機械と関連付けて言及する。
付加加工(アディティブ・マニュファクチャリング=AM)法
AM、特に金属3次元(3D)プリンターに関する情報発信は多くなっている。形をつくる方法は、除去加工、成形加工、付加加工が代表的なものである。除去加工は不要な部分を除去することによって、成形加工は材料を変形させることによって、付加加工は材料をつなぎ合わせることによってそれぞれ、所望の形状を得る加工方法である。
この中で、金型加工に用いられる方法としては除去加工が最も多く、前述のように切削加工、研削加工、放電加工がその代表である。単一の加工法だけで形をつくって完成させることは少なく、多くの加工法を組み合わせて要求に応じた仕様や機能をもつようにつくられる。
要求される部品あるいは形状をつくるのにはいろいろな方法を選択することによって可能になるが、どのような方法を用いるかは(1)どんな材料を使って、その材料のどんな特性を生かすのか(2)どんな形状をつくりだすのか(3)寸法精度、幾何精度、表面性状はどうか(4)コストはどうか―などによって決定される。材料、加工方法、加工条件の選択が不適切な場合には種々のトラブルが発生する。
AMは前述した要求の中で、材料の制限、精度、表面性状で除去加工に比して劣る。最近では、AMとミーリングの良いところを複合化することによってこの問題を解決することができるようになってきた。
ミーリングにおける金型加工で最も苦手な形状は深リブ溝加工であろう。工具を長くするとその分たわんで精度よく加工できない。AMは基本的には積層造形なので、段差および精度に問題が生じる。これらを複合化することによって互いの問題を解決できる。
図2に、金属3Dプリンターの外観とそれによって製作されたサンプルを示す。
図3に金属3Dプリンターとミーリングの複合加工機の外観とそのサンプルを示す。もちろんベースはMCである。今後ますます増えていくだろう。
金型などの3D形状加工では、除去加工の中でも切削、研削、放電加工が一般的に使用され、その中でも切削加工が最も多用される。切削ではMC、5軸加工機、複合加工機が多くなっている。金型加工以外での部品加工では、複合加工機、多軸加工機での複雑形状加工や段取り替え軽減のためのシステム提案が増加している。
図4に5軸制御MCで製作された航空機部品と自動車部品の外観をそれぞれ示す。
どのような加工条件が重要か
金型の形状加工では切削加工が多用される。特にMCを用いたミーリングによる形状加工は今後も増えてくると考える。以下にミーリングにおいて重要と思われる加工パラメーターについて述べ、工作機械との関連について言及する。
【切削速度】
断続加工での切削速度とは、実際の工具刃先と被削材間での相対速度のことをいう。切削速度は工具摩耗を最小にする適正値があるといわれている。切削速度は、工具半径と回転数の積に比例する。すなわち、工具半径が大きくなれば回転数を下げ、工具半径が小さくなれば、回転数を上げないと工具は摩耗するということである。
今後ますます、小径工具の需要は増加すると考えられ、スピンドルのさらなる高速化が必要であろう。
【送り速度】
送り速度は1刃当たりの送り、刃数、回転数の積で表される。回転数が前述のように決定されると、刃数を多くするか1刃当たりの送りを大きくしないと送り速度が遅くなって加工効率が低下する。
最近では駆動系にリニアモーターを使用して高送りを可能にしているMCが多くみられる。
【切り込み深さ】
切り込みを大きくすると加工効率は上がるが、切削抵抗は上昇し、工具損傷などが発生しやすくなる。またビビリが生じやすくなり、加工面のうねりも大きくなる。これらの悪影響が生じない範囲で大きくしたほうが良い。
それ以外にもピックフィード、1刃の送り、切削方向、切削油剤などがある。
切削条件は切削熱、切削抵抗、表面粗さ、寸法精度、工具寿命・損傷などに大きな影響を与えるので、適正な条件を見いだすことが重要である。切削する際に各要素が変化した場合はこれに応じて試し切削をやらなければ適正化は難しいといえる。これからの工作機械の指向は、このような各加工条件について、適切な指示ができるようなソフト的なサポートが欠かせなくなってくる。この辺は、IoTとのリンクに大いに期待する。
MCによる金型形状加工
金型加工ではMCとCAD/CAMは当たり前になっている。すなわち、コンピューターを用いて設計し、加工して金型を製作するのである。これからも以下のような発展が期待されている。
▽多機能化・多軸化=どのような形状でも加工ができ、他の加工が複合化できる(図4)。
▽より高速で加工ができる超高速加工機=リニアモーターの採用により高速で送ることができるMCが出てきた。併せて高回転の主軸も出てきているが、小型・高精度な金型加工ではもっと高速回転が必要な場合もある。
▽より高精度な加工ができる。超精密MCでもナノ加工が可能になってきている。精密金型ではさらに高精度な加工が期待されている(図5)。
▽学習や教育、シミュレーションなどができるMC。コンピューターの発達に比べてMCで使用するNC装置は進んでいない。現在のコンピューターでできる機能をMCに盛り込んでさらに進化させることが重要である。図面と材料をセットすれば金型ができてくるMCが究極の姿であるが、設計も段取りも人がやっているのが現状である。この分野が、IoTとハードウエアが指向する方向であろう。
ミーリング加工を中心に金型の形状加工技術についての基礎とMCとの関連について言及した。MCは高精度化、高速化が実現されている。しかし、速く、高精度で適切な価格で形状加工を実現するためには加工機、工具、ツーリング、CAD/CAM、被削材、加工条件などの適正なバランスが重要である。また、他の加工法とのすみ分けについても考慮する必要があることはいうまでもない。これらのことが、今後IoT、AI活用で実現できると確信している。
おわりに、掲載した写真の原画は松岡甫篁博士から提供いただいたもので、ここに深謝申し上げる。
(2018/11/5 09:30)