[ オピニオン ]
(2018/12/13 05:00)
本欄に限らないが、ネット配信する電子メディアの中で読者の反響が大きいテーマの一つが日本と韓国の関係だ。2018年は2月の平昌冬季五輪、6月の米朝首脳会談、10月の韓国国際観艦式での旭日旗問題、それに現在も進行中の、いわゆる徴用工に対する賠償を日本企業に命じた韓国最高裁判所判決など、話題が多かった。
産業界は基本的には融和派である。韓国や北朝鮮に限らず、他国との友好を増進して交流を深めることが経済的な面からもトクになる。経営者個人にはさまざまな主張があるだろうが、経済関係に関しては「平和と安定は繁栄の礎である」という理念が広く支持されている。隣国との争いごとを好む産業人などいない。
しかし、そうした産業界のトップさえ”徴用工判決”以降は日韓関係について口が重い。自社が訴訟の当事者である企業などは「分かっているだろ? 言うことなんかないよ」と眉をひそめる。冷え込んだ日韓関係が、ある種のボーダーラインを越えてしまった印象だ。
日本と朝鮮半島の間には不幸な関係が過去にあったのは事実であり、また産業社会の構築で先んじた日本が、朝鮮半島の人々に差別感情を持っていた歴史もある。日本の立場では、韓国が経済発展に成功し、成熟することで先進国としての対等な関係が始まると期待してきた。
しかし、結果的にこの期待は裏切られた。めざましい経済成長を遂げて日本の援助から自立した韓国は、日本を無視しても構わないと考えるようになった。いささか誇張するなら、スポーツの試合でのライバル対決のように、日本を困らせれば痛快だと感じる韓国国民が少なくないのだろう。そんな感情論で、国際関係の基盤である条約や首脳同士の約束が揺らいでしまう危うさが日韓関係の根っこにある。
だからといって、韓国と取引関係のある日本企業が不当な判決で賠償の危機にさらされ、将来の事業展開に支障を来すことは決して許されない。いわゆる徴用工判決の非は明確に韓国側にあり、国際法違反の状態を解消する努力を日本が韓国に求めるのは当然だ。
ただ日本企業が今回の不当な判決による賠償の危機から救われたとしても、日韓関係の困難さは当分の間、変わらない。日本政府の一部からは「戦略的放置」論が出ている。政治的緊張にフタをして、距離と時間を置いた上で解決を子孫に委ねようということだ。
日韓の間は通商関係も盛んで、互いの国を訪れる旅行客も少なくない。すなわち米国と旧ソ連の東西対立による冷戦構造とは比べものにならないほど関係が深い。互いに米国の同盟国である限りは、戦争が起きる懸念もゼロである。そうした状態を安定させれば、企業は相手国との付き合い方を変え、それなりに交流を活発化するだろう。
欧州大陸で宿敵だったフランスとドイツが和解し、欧州連合を軌道に乗せるには長い時間が必要だった。現代社会のスピード感は過去とは違うが、人間が感情を整理するのにかかる時間は別ものかもしれない。理性的になれない相手なら、戦略的放置も悪くない。(加藤正史)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/12/13 05:00)