[ オピニオン ]
(2018/12/20 05:00)
就労ビザを持っての外国駐在で、まずしなくてはいけないのが、住宅探しや銀行口座の開設などだ。戸籍のない米国駐在の場合、個人のIDともなるソーシャル・セキュリティー・ナンバー(SSN=社会保障番号)の取得が必須となる。SSNがないと、自動車運転免許取得や各種の契約に支障をきたし、銀行口座もつくれない。
2019年4月からの改正「出入国管理及び難民認定法」の施行に向け、政府は17日、「外国人材の受入れ・共生のための総合的な対応策」の最終案をまとめた。この中で、公営住宅利用を含めた住宅確保での環境整備、全ての金融機関で改正法により創設される特定技能を有するものや技能実習生が銀行口座を容易に開設できるようにする取り組みを実施-などとしている。
従来、銀行口座を開設するには6カ月以上の在留が必要という。こうした取り組みが実現すれば、当初からの生活環境はそれなりに改善される。ネットバンクはすでにそうした取り組みを始めている。
同最終案ではそのほか、11カ国語対応の「生活・就労ガイドブック」(仮称)の作成、外国人と接する機会の多い行政機関に自動音声翻訳アプリを利用した多言語対応の「多文化共生総合相談ワンストップセンター」(仮称)の設置、ハローワークでの多言語対応、医療保険の適正な利用確保、留学生の就職支援、6月を外国人労働者問題啓発月間とするなど、多様な共生対応策が羅列されている。不法滞在や偽装滞在に関与するブローカーの排除なども盛り込まれている。
今回の日本の「出入国管理及び難民認定法」の改正について、「日本は、世界の潮流に逆らって、さらに移民増を追求」(ニューヨーク・タイムズ紙)などと、少子高齢化社会対策としての移民の推進、ととらえている。政府が同改正を「移民政策ではない」といっても、そうはとらえられていない。
すでに「移民大国」を思わせる統計が存在する。6月末現在の中長期在留外国人は231万1061人。これに在日韓国人・朝鮮人などの特別永住者を合わせると263万7251人で、これは前年同期比2.9%増の過去最高を記録している。住民基本台帳人口で見ても、外国人住民(18年1月1日現在)は前年比7.5%(17万4228人)増の249万7656人。うち、70%強の175万7739人が三大都市圏に住んでいる。
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(17年10月末現在)では、外国人労働者は前年同月比18%増の127万8670人とこれまた過去最高であった。経済協力開発機構(OECD)加盟国における外国人移入数でみても、16年、日本はドイツ、米国、英国に次ぎ第4位であった(International Migration Outlook2018)。
19年4月から5年間で最大34万5150人の外国人労働者の受け入れ拡大を行おうとする政府の政策決定は、人手不足で景気を腰折れさせたくない観点から急いだ印象をぬぐえない。すでに移民大国であるわが国の抱える外国人労働者の問題を、政府が近々閣議決定する上記の「外国人材の受入れ・共生のための総合的な対応策」で対応できるだろうか。
米国政府は、「2018年人身取引報告書」で、日本に来る技能実習生絡みの借金問題などを取り上げている。日本だけの問題ではないにしろ、こうした報告書に取り上げられること自体、恥ずべきことではないのか。
80年代初め、ある日本企業がタイ工場の相当規模の労働者を日本の工場で研修させた。これに対し「体のいい安価な労働者利用」との批判があった。その後、その企業のタイ・アユタヤ工場見学の機会があった。若い女性労働者が並ぶ朝礼で、日本人管理職が(しっせき)するのを目の当たりにした。タイ人にしても中国人にしても、皆、面子(めんつ)を大事にしている。皆のいる前で叱って大丈夫かな、と思ったが、しばらくして、その工場で労働争議が起きた。
文化、宗教、習慣が異なる民族が共生するのは難しい。4月に新設される「入国管理庁」は厳しい目配りが必要になるだろうが、共生の下に「互恵」精神が根付くことを願ってやまない。(中村悦二)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/12/20 05:00)