[ オピニオン ]
(2019/1/10 05:00)
地方銀行の経営が悪化している。超低金利の環境が続く中で、貸し出し競争が激化し金利収入が低下している。加えて、融資先も広がりを見せていない。今後も人口減少社会の中、地銀経営は一段と厳しさを増す。全国の信用金庫、信用組合も同様だ。地域や企業とつながり、寄り添う、未来の地域金融のあるべき姿を真剣に描く時期にきている。
全国地方銀行協会がまとめた地銀63行の2018年9月中間決算(単体、速報ベース)によると、約7割の43行が当期利益ベースで減益か赤字となった。貸し出しに伴う金利収入の落ちこみが要因だ。企業数減少で優良の融資先が限られ、金利競争に陥っていることも響いた格好だ。
日銀は2018年10月に発表した金融システムリポートの中で、「地銀の経営体力が今後さらに低下すれば、地域経済に悪影響を及ぼしかねない」と、警鐘を鳴らしている。
金融庁は、2016事務年度金融行政方針の中で、「日本型金融排除」を定義した。銀行や信金、信組が担保・保証に依存した取引に偏り、融資後の資金の出入り状況をモニターしていく「途上与信(貸し出し)管理」さえもしなくなり、必要以上に顧客との取引をしなくなったのではないかという問題意識が根底にある。
一時期、高収益を誇り、地銀の優等生とされたスルガ銀行の不正融資問題は地銀経営のあり方に大きな衝撃を与えた。本業の苦境を補ってきた有価証券の運用益も度重なる「益出し」で細ってきている。厳しいノルマを課して、行員が暴走しやすい土壌が地域金融の現場には常にあることも確かだ。成長戦略を描けない地銀を象徴するできごとでもあった。
こうした中、独自のビジネスモデルを実践する地域金融の動きも全国各地で出てきた。地元のお祭りに積極的に参加し、徹底的な顧客密着営業を自ら率先し、約43億円の繰越損失をわずか4年で一掃するV字回復を成し遂げた新田信行理事長率いる第一勧業信用組合(東京都新宿区)は典型的だ。いわき信用組合(福島県いわき市)は、東日本大震災の津波ですべてを失った人に、身元確認だけで保証人が不要となる、30万円の融資を取り扱っている。
また、塩沢信用組合(新潟県南魚沼市)は11年に住宅ローンの新規営業を停止した。既存顧客のうち他行に乗り換えようとする取引先に職員を同行させ、融資条件が悪ければ、取引先に代わって条件が良くなるよう交渉した。
少子高齢化と人口減少という地域の課題にともに取り組み、解決の糸口を探る存在でなければ地域金融機関ではない時代が訪れている。(幕井梅芳)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2019/1/10 05:00)