[ 機械 ]
(2019/1/31 05:00)
【リニアモータ駆動 高速・超精密形彫り放電加工機AP30L】
放電加工機で世界大手のソディック。2018年に亡くなった創業者の古川利彦前名誉会長の発明により、放電現象で精密金型などに必要な微細な加工ができるようになった。その古川前名誉会長が晩年こだわっていたことの一つが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の採用だ。
子息の古川健一社長は、「軽いCFRPを機械に使えば、顧客が求める高速で高精度の加工に利点がある」と創業者の思いを説明する。成形方法が確立された材料ではなくハードルは高い。しかも「協力会社に丸投げするのでなく、内製することに意義を感じていた」(古川社長)と、専用のプレス機械を導入してまで取り組んだ、強いこだわりを振り返る。
CFRPを形彫り放電加工機「AP30L」の主軸に使った。量産製品で同様の構造は業界初とみられる。主軸は従来機より約3割軽くなり、大幅なスリム化を実現した。
設計を担当した坂口昌志課長は開発途中、古川前名誉会長に進捗(しんちょく)を説明した時の記憶が鮮明だ。「CFRPを『どの部分に使ったのか』『こっちには使えないのか』『どんどん使ってほしい』などとにこにこしながら話された」(坂口課長)。1人の技術者としての探究心、そして社名の由来である「創造」の心を見た瞬間だった。
新技術はCFRPにとどまらない。従来比2倍の高速応答ができる数値制御(NC)装置、放電電源装置に加え、荒加工用、中仕上げ加工用、仕上げ用の各回路をそれぞれ開発し搭載した。
古川社長は「開発陣がやりたいこと、すべきことを全部やってくれた。1ランク上の加工を実現する製品にしてくれた」と労をねぎらう。
こだわりの製品の十大新製品賞受賞を、古川前名誉会長の耳に届けることができなかった。ただ、いくつか種類のある放電加工機のうち、同製品はソディック創業の形彫り方式であり、受賞は古川社長の就任初年度のこと。過去と未来をつなぐようなできごとだ。(編集委員・六笠友和)
【製品プロフィル】
精密な金型や部品の製造に使う形彫り放電加工機の最上位機。本体の機械構造に加え、頭脳に当たる数値制御(NC)装置、次世代パワー半導体による放電回路、人工知能(AI)などを開発、搭載した。仕上げ加工から荒加工までの全領域で高速化を実現する。加工時間は仕上げが従来比20%減、荒加工は半減となる。
(2019/1/31 05:00)