[ オピニオン ]
(2019/1/31 05:00)
第198通常国会が28日召集され、安倍晋三首相は衆参両院での本会議での施政方針演説で「平成最後の通常国会となる。少子高齢化に立ち向かわなければならない」と述べ、2019年度予算案の早期成立や社会保障改革に強い意欲を示した。厚生労働省の「毎月勤労統計」調査が不適切だった問題については「信頼回復に向け徹底調査を行う」と述べるにとどまり、野党側の追及が厳しさを増しそうだ。
会期は6月26日までの150日間。政府・与党は18年度第2次補正・19年度予算案のほか、10月の消費増税を前提とした幼児教育・高等教育無償化に関する法律など58法案を提出する。
政府は夏の参院選を控え、国会の大幅な延長は難しいと判断。通常国会に提出する法案は教育無償化や消費増税に伴う経済対策に関する法案などに絞り込んだ。
安倍首相は施政方針演説で「これまでと次元が異なる政策が必要」とし、全世代型社会保障制度への転換を進める考えをあらためて強調。20年4月に本格的に始まる高等教育や幼児教育の無償化、年金支給年齢の引き上げなど「平成の先の時代」に向けた政策ビジョンを示した。
安倍首相は「デフレ脱却マインドが必要だ」と賃上げに期待を示すとともに、予算案の今年度内成立を目指す方針だ。このほか、「2025年大阪万博」開催に向け、専任の担当相を置くことを柱とする特別措置法案を提出する。
厚労省が賃金や労働時間に関する調査を不適切な手法で行った問題について首相は陳謝した上で、「再発防止に全力を尽くす」としたが、厚労省は補正作業に必要な04~11年分のデータが見つからず、再集計を断念した。
これに対し野党側は、厚労省が賃金や労働時間に関する調査を不適切な手法で行った問題について、「問題の全容解明なくして予算成立はあり得ない」(辻元清美立憲民主党国対委員長)と徹底抗戦の構えを見せている。この問題のほか、先の臨時国会で焦点となった外国人労働者受け入れ拡大の問題追及を強める考えで、徹底抗戦の構えを見せている。
さらに総務省は28日、政府の基幹統計(全56種)のうち、厚労省の賃金構造基本統計で不適切な処理が確認されたと発表したのだ。
賃金構造基本統計は雇用形態別の賃金などを調べる統計で毎年7月に実施している。厚労省が総務相の承認を得た計画では、対象となる約8万事業所を調査員が訪問して調査票を配布・回収することになっていたが、ほぼ全て郵送で対応していたという。また「バー、キャバレー、ナイトクラブ」を対象から外し、調査していなかった。
この統計の結果は、厚労相の諮問機関である中央最低賃金審議会が毎年度の最低賃金改定の「目安」を決める際の資料などに使用されている。賃金統計が政府のアベノミクスの成果を不当に押し上げていたとすれば、「アベノミクス偽造」との野党の指摘も否定できなくなる。
外交問題では日ロ平和条約締結交渉、日米貿易交渉に意欲を示すとともに、中国との関係についても「競争から協調」関係を目指すとした。しかし、現実は北方領土解決のめどは立たず、中国や韓国などアジア諸国との関係は悪化するばかりだ。
本会議に先立って参院本会議場で行われた開会式は、4月末に退位する天皇陛下をお迎えして行われた。在位中最後の通常国会となる陛下はお言葉で、「国会が当面する内外の諸問題に対処するに当たり、国権の最高機関としてその使命を十分に果たし、国民の信託に応えることを切に希望します」と述べた。天皇陛下のお言葉は重く響いた。(八木沢徹)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2019/1/31 05:00)