[ オピニオン ]
(2019/2/21 05:00)
大手鉄鋼各社の“稼ぐ力”が急速に弱まっている。鋼材需要が堅調に推移する中にもかかわらず、高炉3社が2019年3月期の連結業績予想を、そろって下方修正した。製造設備のトラブルが頻発していることや、原料・資機材の値上がりに鋼材の値上げが追い付かないことが主な要因だ。収益基盤を早急に立て直さないと、新興国など成長が見込める海外市場への投資もおぼつかなくなる。
首位の新日鉄住金は和歌山製鉄所(和歌山市)などの高炉で起きた設備の不具合や操業トラブルが響き、同3月期の年間粗鋼生産量が単体で4130万トン程度と、従来の想定を80万トン下回る見通しとなった。前年度の生産量4067万トンは上回るものの、想定より下ぶれる分、東京五輪・パラリンピック関連などを中心に堅調に推移する需要を、取りこぼすことになる。
同社はこれを受けて同3月期の連結事業利益(売上高から売上原価、販管費、その他費用を控除し、持ち分法による投資利益とその他収益を加えた利益項目)の予想を、従来の3500億円から3300億円に引き下げた。
JFEホールディングス(HD)も傘下のJFEスチールが保有する製鉄所で操業トラブルが立て続けに起きたことから、同3月期の業績予想を収益全般にわたって下方修正した。年間の粗鋼生産量は単体で2700万トン程度と、従来の想定を100万トン下回る見通しだ。神戸製鋼所も高炉の付帯設備などでトラブルが相次ぎ、生産量が伸び悩んだ。
新日鉄住金の宮本勝弘副社長は相次ぐトラブルの原因として、「設備にかかる負荷の高まりや(製造現場の)世代交代」を挙げる。高炉などの経年劣化が進む中で、堅調な鋼材需要や難易度の高い顧客ニーズへの対応を迫られ、設備の維持管理が難しくなってきた。
激甚化する自然災害への対応も急務だ。各社の生産が停滞した背景には豪雨や台風、地震の影響もある。生産トラブルや自然災害への備えを、抜本的に見直す必要がある。
原料・資機材価格の高騰も各社の利益を圧迫している。調達コストの増大を受けた鋼材値上げの効果で、19年3月期は3社とも増収を見込むが、神戸製鋼所は原料高に値上げが追い付かず、利幅が縮小するという。新日鉄住金は17年度上期から、トン当たり5000円の利益改善を目標に掲げて値上げに取り組んだが、18年度下期時点の改善幅は2700円にとどまる見通しだ。鉄を「つくる力」とともに、「売る力」をどう鍛えるかが課題となる。
鉄鋼各社は日本の人口減少に伴う鋼材需要の先細りをにらみ、海外需要の獲得に力を入れているが、そこには一国で世界粗鋼生産量の半分を占める中国勢をはじめ、多くの強豪が待ち受ける。規模で勝る海外メーカーに対抗するには、製品の高品位化・高付加価値化やコスト競争力の強化が不可欠。革新的な製品・技術の開発やコスト構造の改善に向けた取り組みを含め、海外展開に必要な投資余力をどう高めていくかが問われている。(宇田川智大)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2019/2/21 05:00)