[ オピニオン ]
(2019/4/8 05:00)
物理学、化学、生理学・医学の科学系ノーベル賞を受賞した日本人は昭和の時代で5人だった。昭和の半分にも満たない平成は18人(外国籍2人を含む)の受賞者を輩出した。ただ、受賞者がノーベル賞につながる研究をした年齢はほとんどが30代後半で、受賞までの年数は20年以上が大半なので、実際は昭和の研究成果で受賞した研究者が多かったといえよう。
ノーベル賞受賞者は大幅に増えたものの、果たしてこの勢いがポスト平成まで続くのかは予断を許さない。2016年の科学技術白書は「我が国の科学技術イノベーションを取り巻く課題は山積しており、理科離れ、博士課程進学者の減少、質の高い論文の国際的シェアの低下などのほか中国をはじめとする新興国の躍進により、我が国の科学技術の世界に地位の低下が懸念されている」としている。
ランキング上位の大学の教授に聞いても「優秀な学部生や大学院生が研究室に残らずに企業に就職するケースが多くなっている」という。その原因の一つは、教員になっても給与水準が欧米の大学に比べて格段に低いこと。もう一つは、授業と研究以外にも学務という学内委員会などの組織運営に参加することが求められ、研究の時間が制限されることのようである。
グローバル化の中で、欧米の超一流大学や民間の大手企業との人材獲得競争の側面からすると、こうした状況では優秀な人材の確保は難しいだろう。日本の大学が生き残っていくためには、思い切った人材獲得のための投資をしなければならない時期にきている。
戦後の日本はモノづくりにより経済発展を遂げ、豊かな国を築いた。しかし、近年は発展途上国が力をつけ、コストだけでなく、品質でも日本製とそん色のない製品を生み出している。
天然資源小国の日本のポスト平成をより豊かで住みやすい国にするためにはノーベル賞級の“知の力”をはぐくむことが何よりも重要だ。そのためには大学や研究機関の研究者が研究に専念できる環境を整えることが必要ではないだろうか。
(2019/4/8 05:00)