[ オピニオン ]
(2019/4/22 05:00)
「うそは常備薬、真実は劇薬」。心理学者である河合隼雄の言葉だ。一般的に人々は、人間関係を保つため、うそを上手に交えて対話をする。ただ、日常的に用いると見えすいたお世辞になり、信用されなくなる“中毒症状”を引き起こす。さりとて、安易に他人の本当の欠点を指摘すると、人間関係が壊れるなどの致命傷になりかねないと河合は指摘する。時節柄、組織改革や人事異動に結びつけて考えてしまった。弊社でも多くの同僚が新しい持ち場で努力をしている。あいにく小欄に人事権はない。だが大抵の会社はきれい事だけでは動かず、周知の難しい事情もあることは想像がつく。少なくとも、全員の意に沿う人事はできるはずがない。劇薬は、ここぞという時のもの。しかし、常備薬を乱用するわけにもいかぬ―。人事権者は、異動の意図を部下に説明する際のさじ加減に悩むことも多いだろう。該当した従業員一人ひとりにどれだけ前向きな動機付けを施せるかによって組織の力は変わりうる。河合は「よく観察すると、うそではなくて何かよいことが言えるはずである」とも考察する。相手と向き合い、納得感のある言葉を紡ぐことができているか。日々の積み重ねは無駄にはならない。
(2019/4/22 05:00)