[ オピニオン ]
(2019/6/6 05:00)
最先端の研究開発を支える計測技術や実験手法は、縁の下の力持ちにとどまらない。従来の限界を打ち破る技術が登場すると、次の科学的な研究の飛躍的な発展をもたらす。研究力強化の議論では、この基盤技術の重要性を忘れてはならない。
政府が閣議決定した2019年版の科学技術白書は、今年のテーマを基礎研究に据えた。基礎研究は真理の探究、基本原理の解明などの研究活動だ。基礎とはいえ、iPS細胞(人工多能性幹細胞)や超電導など応用につながることもある。さらに白書では、分析や観察などの基盤技術にも注目した。
歴史的に分かりやすいのは、顕微鏡の進展だ。光学顕微鏡の分解能は、原理的に可視光の波長で決まり、約200ナノメートル(ナノは10億分の1)が限界だった。しかし、可視光でなく電子線を使うことで状況は一変。現在の分解能は0・05ナノメートルで、材料やライフサイエンスなど多様な研究に貢献している。
近年の注目例の一つは、X線構造解析の効率を大幅に高めた「結晶スポンジ法」だ。分子の立体構造が正確にわかる結晶X線構造解析法は、試料が結晶でないと使えない。結晶化しにくい物質や、微量しか得られない天然化合物などで、涙を飲んだ話をこれまでよく聞いた。
東京大学の藤田誠卓越教授らが開発した同法が、課題を解決した。結晶スポンジと呼ぶ多孔性結晶に、試料を溶液状態で流し込む。スポンジの枠を使って試料の周期配列を作り出し、従来はできなかった物質でのX線解析を可能にした。
オワンクラゲの緑色蛍光たんぱく質による生体観察、たんぱく質をありのまま観察できるクライオ電子顕微鏡といったノーベル賞受賞案件もそうだ。基礎研究から生まれた基盤技術が、次の科学研究を広げたことが受賞の一因といえる。
日本のモノづくり技術が、機器や装置の開発を通して世界に貢献する分野でもある。地味に見える基盤技術が先進科学を後押しし、かつ互いに支え合っている認識を、科学技術に関わる多くの人に深めてほしい。
(2019/6/6 05:00)
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